法人口座を複数作る場合のメリット・デメリットや法人口座を開設できる金融機関などについて説明します。これから起業する方は是非参考にしてみて下さい。
目次
そもそも法人口座とは?
法人口座とは、金融機関の口座名義が法人である口座のことです。事業拡大や新規事業の立ち上げに向けて融資を受ける際に、個人と法人では金融機関から借り入れできる額が異なります。借入額の交渉や審査を受けるには、会社として口座開設したほうが有利になります。
一般口座と法人口座の最も大きな違いは、開設完了までの時間です。一般口座の場合、身分証明書と印鑑さえ用意すれば、最短30分ほどで通帳発行まで完了する場合があります。法人口座の場合は、金融機関の規模に関わらず申請した当日に口座開設が完了することはほとんどありません。なぜなら、振り込め詐欺などは法人を装って開設した口座が使用されることが多く、犯罪防止のために金融機関が一般口座と比べて厳重な審査するためです。一部の銀行では、即日の法人口座開設が可能ですが、審査に関しては厳重におこなっています。
法人口座の開設に必要な書類
法人口座の開設には、金融機関が不審な会社と接触しないために、厳重な審査を必要としています。そのため、判断材料として以下の書類や資料の提出が必要です。
・登記簿謄本
・印鑑証明書
・本店・本社の賃貸契約書
・申請者の公的身分証明書
・事業内容を確認できるもの
必要書類は、口座開設する金融機関によって異なるため、事前にWebサイトなどで確認しましょう。
同一銀行で複数の法人口座は作れるのか?
事業拡大によって、1つの法人口座ではキャッシュフローの管理が困難になるため、用途ごとに複数の法人口座を作って管理をしたいと考える起業家も少なくありません。その際、現在取引をしていてこれまでに信頼を築いてきた銀行で今後も取引を続けたいと思う方もいるのではないでしょうか。しかし、原則1つの銀行では1つの法人口座しか作れません。
また、法人口座の開設する支店は本社の近くにある必要があります。合理的な理由がない限り、本社からは離れた支店での法人口座の開設は拒否されるでしょう。ただし、ネット銀行なら1つの銀行で複数の法人口座仮設が可能です。
法人口座を複数作るメリットとは?
主なメリットは以下の通りになります。
資金の管理がしやすくなる
法人口座を複数作れば、目的ごとに口座をわけることができます。それによって、事業・事業所・事業部門別などに管理することができ、それぞれのキャッシュフローを正確に把握することが容易になります。事業を拡大するごとに入出金が複雑化し、「どの事業がどれくらい売上をだしているのか」が非常にわかりにくくなるため、経営状態の可視化が難しくなっていきます。
さらに用途ごとに法人口座を使い分けば、資金の管理がしやすくなることによって、経営状態を明瞭に把握することができ、経営分析に必要な要素を正しく管理することが可能になります。
融資を受けられる可能性が高くなる
銀行は、会社の信用性や返済能力を調べて融資を出すか判断します。銀行で取引実績がない場合や経営状況が悪い場合は、融資を借り入れしにくいです。そこで、複数の法人口座を保有し入出金を繰り返すと、取引実績として信用性が上がるため融資を受けられる可能性が高くなり、新規の法人口座も開設しやすくなります。
事業拡大や新規事業の立ち上げなど資金が必要になる場合に、複数の法人口座を作っていればスムーズに融資が受けられるでしょう。
振込手数料が節約できる
近年市民権を得つつあるネット銀行は実店舗をもたず、運営コストが低いという特徴から、実店舗を持つ銀行より振込手数料が安く設定されています。そのため、メイン銀行を都市銀行または地方銀行にして、ネット銀行に入っているお金から各種振り込みを行えば、振込手数料が抑えられます。
ペイオフ対策
ペイオフとは、金融機関が破綻してしまった場合に預金保険制度によってお金が返ってくる制度です。しかし、預金していた満額が返ってくるわけではなく、ペイオフ制度で保障されているお金は1,000万円とその利息分だけとなっています。そこで、金融機関に預けるお金を分散させることにより、リスクを低減させる。これをペイオフ対策といいます。つまり、法人口座を複数持ち、資金運用することはペイオフ対策をしていることなるのです。
法人口座を複数作るデメリットとは?
上記でメリットを紹介してきましたが、もちろんデメリットも存在します。それは、以下の通りになります。
キャッシュフローの管理が煩雑になる
確かに、事業・事業所・事業部門別などに目的に応じて法人口座を作れば、それぞれの数字を正確に把握することができます。しかし、法人口座が多くなり、資金が分散されればされるほど、企業全体のお金の流れが読みにくくなっていきます。特に、経理担当者が少ない企業では従業員の負担が増してしまいますし、経営者の判断ミスにもつながります。法人口座を2つ以上もつことにより、かえって資金の管理が煩雑になることも考えられます。
口座を管理する手間がかかる
法人口座を複数持つと、管理することが大変になります。通帳やキャッシュカードが増えますし、IDやパスワードの管理もしなくてはなりません。また、それぞれの法人口座が何のために作られたのかをきちんと把握しておかなければいけなくなります。法人口座をむやみに増やすと、存在そのものを忘れてしまう可能性もあります。
ネットバンキングの利用料が必要
ネットバンキングとは、オンラインバンキングとも呼ぶ、都市銀行や地方銀行がおこなっているサービスです。パソコンやスマートフォンで資金管理ができるため、銀行の窓口やATMに行く必要がありません。実店舗を持つ銀行で法人口座を開設し、ネットバンキングを利用すると月額料金が必要です。都市銀行の月額料金の平均が約2,000円ほどで年間2万円以上のコストがかかります。しかし、ネット銀行ならネットバンキングの利用料はかかりません。
法人口座を作成できる金融機関をご紹介
最後に、法人口座を開設できる金融機関を紹介します。自社に合った金融機関を選択するには、それぞれの特徴を理解することが大切です。複数の口座を保有するにあたって、各特徴を知れば、メイン銀行とサブ銀行を決める指標になるでしょう。
都市銀行
都市銀行はメガバンクとも呼ぶ銀行で、全国に支店があります。代表的な都市銀行は、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・りそな銀行・みずほ銀行です。全国に支店があるため、全国展開している会社には都市銀行が適しています。都市銀行は、知名度が高いため取引の信用がされやすく、高額な融資の借り入れも可能になりますが、他の金融機関と比べて維持費が高く、法人口座開設の審査も厳重です。全国に支店があり利用しやすい反面、担当者の転勤があるため、長期的な信頼関係が作りにくいでしょう。
地方銀行
地方銀行は、地域密着型の銀行で、基本的に全国地方銀行協会や第二地方銀行協会に加盟している銀行を指します。地域密着型の銀行であるため、特定地域に限定して店舗を展開しています。店舗がある地域のお金の流動を把握しており、都市銀行よりも親身に相談に乗ってくれる場合がほとんどです。そのため、特定地域のみで経営している企業は、地方銀行と信頼性を構築でき扱いやすい銀行といえます。しかし、他の地域に会社を移動する場合には利用しづらくなり、範囲外での地域では知名度が低いため、都市銀行に比べて信頼度は劣るでしょう。
信用金庫
信用金庫も地方銀行と同じ地域密着型の金融機関ですが、営利を目的とせず、「地域の繁栄」を目的としているため、地方銀行よりも親身な対応がなされています。会員制というのも大きな特徴で、会員になるためには信用金庫が指定した地域内に拠点を構えており、かつ、資本金9億円以下、または従業員数300人以下である必要があります。設立間もない企業や事業規模が小さい企業も柔軟に対応してもらえますし、口座開設の基準も都市銀行、地方銀行よりも厳密ではないというメリットがあります。ただし、先ほど挙げた資本金9億円以下、または従業員数300人以下という規定を超えると脱会しなければなりません。
ネット銀行(ネットバンク)
ネット銀行(ネットバンク)とは、取引方法がインターネットや電話などの通信手段をメインとする銀行です。実店舗を持つ銀行が少なく、まったく店舗を持たない銀行も存在します。代表的なネット銀行は、楽天銀行・PayPay銀行・GMOおあぞらネット銀行・住信SBIネット銀行などです。実店舗を持たず運用コストを抑えることで、他の金融機関では必要な口座維持費手数料がかかりません。また、振込手数料が安く、預金の金利も高く設定しています。しかし、サービス開始してからまもないネット銀行は、取引相手の信頼性が低くなる可能性や銀行窓口でお金に関する相談ができません。
ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行は、2007年に日本郵政公社の民営化にともない誕生した金融機関です。1,300万円以上の金額は預けることができませんが、全国にある郵便局で金融商品の取引が可能です。全国にいる顧客への振込口座として、ゆうちょ銀行は非常に優れています。ゆうちょ銀行では、口座維持手数料やATMでの現金引き出し、同一銀行への振込が無料です。しかし、銀行としての歴史が浅く、保険や制度の対応していない特徴もあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、法人口座を複数持つことによるメリット・デメリットについて解説しました。
上記を踏まえた上でお勧めするのは、銀行(都市銀行:地方銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行)+ネット銀行です。銀行をメインバンクとして利用することで取引先に安心感を与えつつ、2つ目からの法人口座はネット銀行にすることで、振込手数料などの費用を抑えることができます。
ご紹介した金融機関やメリット・デメリットを参考に、ご自身の経営スタイルに合った金融機関の組み合わせを見つけてみてください。