起業を考えるタイミングとして、「現在の仕事に満足できない」「自分でやりたいことが出来た」「経営に興味がある」「ゼロから何かを作りだしたい」など人それぞれ様々でしょう。では起業するには、どのような準備をし、どんな手順や手続きで進めるのでしょうか?
そこで今回は、起業準備の本質や手順、手続きなどについて解説していきますので、これから起業を検討している方は参考にしてみて下さい。
目次
そもそも起業とは?
起業とは、一般に自分でビジネスを始めることを指します。起業する際には形を決める必要があります。大きく分ければ、「個人事業主」か「法人」なのかという2つに分類されます。法人と個人事業主では、税金面や設立費用などが異なるため、事前にきちんと理解する必要があります。また起業の担い手を起業家と呼びます。したがって、起業家は「自分で事業を始める」人であり、すでに存在する法人や、二代目、三代目といった事業の承継者は当てはまりません。
まとめると、新たに事業を始め個人事業主となること、及び、新たに法人を設立し代表者となることが「起業すること」となります。
起業と似た言葉「独立」「創業」「開業」「設立」「創立」について
起業と似た言葉で「独立」「創業」「開業」「設立」「創立」があります。この中で、よく明確に使い分けられているのは「開業」と「設立」くらいです。「開業」は主に個人事業の開始を指し、「設立」は法人(会社など)を立ち上げる際に使われます。逆に「個人事業の設立」「法人事業の開業」とは言いません。
以下でそれぞれの言葉の意味について説明します。
独立
「独立」には「自分の力で生計を営むこと」という意味があります。そのため、事業の形態や内容に関わらず、「脱サラして事業を始めること」を指して使われるケースが多いです。端的に「起業を前提に会社を辞めること」を指す場合もあります。そのため「独立起業」や「独立開業」などの複合ワードで使われることも多いです。
創業
「創業」もまた、「新しく事業を始めること」を指す言葉です。 個人事業と法人のどちらをスタートするときにもこの表現を使えます。 ただし、個人事業を開業した後、期間をおいて法人化した場合には、個人事業の開業時点を「創業」と記載します。 コーポレートサイトなどで会社の沿革を示す際に、この表現が用いられます。
「創業」と言うと少し堅い印象があり、話し言葉としては「起業」のほうがポピュラーです。より具体的なニュアンスを伝えるためには、個人事業なら「開業」、法人事業なら「設立」と表現すればよいです。
開業
「開業」は、よく個人事業のスタートを指して使われます。本来の意味は「起業」や「創業」とほとんど同じですが、法人事業に対して「開業」という表現はあまりしません。(例外として、病院は法人でも開業と言うのが一般的)
個人事業の開始を税務署へ届け出る際には、いわゆる「開業届」を提出します。これが、個人事業において特に「開業」という言葉が使われる原因だと考えられます。ただ、もちろん法人事業のスタートを「開業」と言うのも間違いではありません。
設立
法人として事業を始めるまでに必要な手続き(定款の作成など)を済ませることを、一般的に「法人を設立する」と言います。下記のように、法律においても株式会社の立ち上げは「設立」と表現されています。
実際の手続きを伴うという点で、「起業」や「創業」よりも具体的な表現だと言えます。ちなみに、個人事業のスタートは「開業」と表現することが多く、「設立」と言うことはほとんどありません。
創立
「創立」は「組織や機関を新たにつくること」を指す言葉です。法人として事業を始める際には「会社を創立する」と言ったりもします。ただ、“複数人が所属する組織をつくる”というニュアンスがあるので、個人事業についてはあまり使われません。
「設立」が具体的な手続きを伴う言葉だとすると、「創立」はもう少し抽象的な表現と言えます。たとえば、よく「会社の設立手続き」とは言いますが、「創立手続き」と言うと違和感があります。
起業準備の本質とは?
起業の準備をする上で欠かせない事は沢山ありますが、特に重要なのは「覚悟」「計画」資金」「経験」です。以下で詳しく説明していきます。
起業したい人がよく陥るパターンとは?
一番いけないパターンは、「儲かりそうだ」くらいの安易なプランで起業を考えている事です。そしてコストをかけずに自分でもすぐに始められるようなものは無いだろうかとインターネットで情報を探し始めます。すると、フランチャイズやせどり、投資、アフィリエイトなどが検索に引っかかってきます。全て失敗するとは言えませんが、成功する人は一握りです。そして、事業は基本的に継続していくものです。「儲かりそう」という事業は今後続けていける事業なのでしょうか?
起業・開業をして成功すれば高収入を得られることも、魅力の一つでしょう。しかし、失敗すれば大きな損失がでるだけでなく、無収入になるリスクもあります。
覚悟がないと起業で失敗する?
事業はすぐに上手くいくとは限りません。1,000人以上の創業者をお手伝いして来て言えることは、結果的にはすごく成功する経営者も半年くらいは苦境に立たされるという可能性が高いことです。売上が上がらない怖さ、資金が減っていく怖さ、従業員への不安、取引先へのトラブル勃発、思った様に進まないプロジェクト、家庭内の不協和音、時には困難な意思決定や戦いを挑まなければなりません。
それらの責任者はあなたご自身です。様々な状況を乗り切っていく覚悟の気持ちがあるかが、最も大切な要素だと感じます。
事業は今まで経験のある業種・職種で行う
起業・開業するときには慎重に事業を選ぶことが大切ですが、ほとんどの人が今までの経験がある業種・職種で起業・開業します。どんな業態においても未経験で起業・開業するのは得策ではありません。自分には経験がないが、一緒にやるメンバーで経験がある人がいるのであればいいですが、全く未経験でスタートすることは、起業・開業後の成功が見えずらいと言わざるを得ません。
例えば、飲食業でいうと、料理の味や接客スタッフの教育、商品や商材の仕入れ、お店の雰囲気や清潔感など、経験が重要になっていく部分が多くなります。経験がなくても何となく知っているだけでは、不測の事態や急な対応がつきものの飲食業ではやっていけませんし、理解できたような気になってしまいがちになることは決して好ましい状況ではありません。そして、飲食業の現場経験が全くない場合、重要な部分の危機感が本当の意味で共有されることのないままに開業することになりますので、何か取り返しのつかない事態になってその深刻さに初めて気付く結果になる可能性は目に見えています。
ビジネスには絶対はないですが、当然リスクを少しでも抑えて、軌道に乗りやすい仕事での起業・開業を目指すのが得策ですし、「今すぐ起業したい」と考えている方も未経験であれば、まずは経験をすることから始めましょう。
起業準備は事業計画書の作成から
事業計画書とは、今後の事業展開について、具体的に売上高や損益の目安をまとめたものです。事業計画書の作成は、決して簡単な作業ではありませんし、事業自体は計画書がなくても始めることは可能です。しかし、事業計画書を作成することは、起業に対する考えを整理し、将来の事業をシミュレーションするためには非常に有効な手段です。頭の中では考えがまとまっているつもりでも、書面に書き出すと意外にあいまいであることに気がつくものです。思い描いていた事業戦略から事業の目標をさだめ、事業計画に落とし込むのです。
事業計画書の書き方がわからない場合は、専門家に相談するほうがよいでしょう。地域によっては、市区町村と創業支援事業者(商工会議所など)が連携して相談窓口を設けているので相談してみるとよいでしょう。経営ノウハウからマーケティングまで、無料相談できる機会が得られるかもしれません。
会社設立に関する情報は予め知っておこう
ここまで、起業する人が陥るパターンや起業する人が考えるべき仕事、しやすい仕事などをお伝えしていきました。ここからは具体的に「起業する内容は決まった」方に知っておきたい情報をお伝えします。
起業するにも「法人格」がいいのか「個人事業主」がいいのか?個人であれば税務署への開業手続き等、法人であれば、必要に応じて、健康保険・厚生年金関連は社会保険事務所、雇用保険関連は公共職業安定所、労災保険関連は労働基準監督署、税金に関するものは所轄税務署や税務事務所にて手続きをしますが、具体的な方法などをあらかじめ知っておけば、事業の事を考える時間を多く費やすことが出来ます。
起業する為には資金の準備は大切
起業の具体的な構想ができたら、起業資金の準備を始めましょう。事業計画書をもとに資金がいくら必要かを検討し、資金の準備を始めます。起業という目標ができたので、資金を貯めることも苦にならないのではないでしょうか。
起業資金を準備する方法としては、銀行の預金がおすすめです。銀行で預金する目的は、資金を貯めることだけではありません。今後融資を受ける可能性も考慮して、金融機関にパイプを作っておく役割もあります。一定の貯蓄があることもアピールできるので、信用を高められます。
起業資金を準備するために預金口座を開くのであれば、信用金庫など地域に密着した金融機関をおすすめします。地域金融機関であれば、起業した後に融資が得られやすいというメリットがあります。すでに大手銀行に口座を持っている人であれば、その口座を使えばよいと考えがちですが、起業したばかりの小規模な事業者が大手銀行から融資を受けるのは非常に難しいのが実情です。
一気に資金を増やすために株式やFX(為替証拠金取引)など、元本割れの可能性がある金融商品を利用することはおすすめできません。また、クレジットカードや携帯電話の代金の滞納は避けるべきです。滞納の履歴は信用情報として一定期間蓄積されます。融資を受けたいときに過去の滞納履歴が影響することもあるので注意しましょう。
事業の規模によっては、自己資金だけでは起業できないこともあります。そのような場合は、金融機関から融資を受けるか、補助金や助成金を受けることを検討します。金融機関は事業計画書の内容をもとに融資するか否かを判断するので、事業計画書を作成しておくことは資金調達の面でも有効です。
起業の方法と手続きについて
ここからは、起業の方法や手続きについて説明します。起業の方法には、個人事業主になる方法と法人を設立する方法があります。それぞれの方法のメリットやデメリットに加えて、煩雑な法人設立の手続きをスムーズに進めるためのコツをまとめました。
個人事業主のメリット・デメリット
個人事業主のメリットは、開業手続きが簡単にできることです。基本的に開業届けを出すだけでお店を出すことができます。また、事業の進め方について、やりたいことをやれるという高い自由度があります。会計や確定申告が法人に比べれば、簡単にできます。多くの場合、個人事業主本人でも作業できるので、税理士などの専門家に頼る必要がありません。また、必要経費に制限がありません。収入面でいえば、稼いだ利益は全て自分のものになります。ただし、税制上利益が大きくなるほど、個人事業主の方が払う税金が大きくなるので、利益が多いときはデメリットになります。
デメリットは、失敗したときは全責任を負うため、最悪の場合は全財産を失うことになります。また、法人に比べると社会的信用度は落ちるので、優秀な人材を採用したいときや銀行から融資を受けたいときなどに、苦労することになります。取り引きを法人に限っている会社もあるので、そのような会社とは取り引きをしたくてもできません。また、赤字の繰り越しが3年しかできないなど、税務面での優遇は法人に比べると圧倒的に少ないです。
法人のメリット・デメリット
法人のメリットは、社会的信用度が高く、そのため優秀な人材を採用しやすく、銀行からの融資も受けやすいことです。また、事業に失敗した場合、個人で債務保証をしていない限り、個人財産を守ることができます。他には、経営者や家族(役員にした場合)に役員報酬を払うことができ、それを経費とすることで節税できます。法人が経営者に掛ける形で経営者の生命保険料を部分的に会社の経費にできます。赤字の繰り越しも9年可能です。役員の居住用住宅を会社名義で借りることで、家賃の約5割を社宅賃料として経費にすることができます。このように税制上の優遇面は法人の方がはるかに有利です。収入面では、会社から報酬をもらう形になるので、いくら利益が大きくても、一度決めた役員報酬を期の途中で上げることはできません。期内の報酬は一定になります。資金繰りが苦しくても役員報酬を下げることもできないため注意が必要です。
デメリットは、会社設立時に様々な書類を作り、申請・登録を行う必要があり、費用も25万~30万程度かかります。法人は会計処理が複雑なため、よっぽど経理に通じた人間でない限り、経営者個人が決算、税務申告をすることは不可能です。税理士などの専門家のサポートが必要で、その分コストもかかります。
また、社会保険の強制適用事業所なるため、必ず加入することになります。従業員の健康保険料、厚生年金保険料の半分を会社で負担しなければなりません。もっとも厚生年金については、老後のことを考えれば加入できるのはメリットかもしれません。
起業するための手順・ステップ
起業するには、個人事業主になる場合と法人を設立する場合があると述べましたが、ここではそれぞれについてどのような手続きがあるのかを見ていきましょう。
個人事業主の場合
個人事業の起業の手続きは、まずは税務署に開業届を出すことです。開業後1か月以内に住所を管轄する税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。ただし、会計帳簿を複式簿記で記帳することを条件に税制上の優遇が受けられる青色申告を適用する場合や、従業員を雇って給与を支払う場合にも、税務署への届け出が必要になります。開業届と同時に手続きをしておくとよいでしょう。
2016年1月以降に税務署に提出する書類には、個人番号(マイナンバー)を記載する必要があります。さらに、提出するときに本人確認が求められるので、マイナンバーカードを持参する必要があります。マイナンバーの通知カードの場合は本人確認のために顔写真のある身分証明書(運転免許証やパスポートなど)も必要になります。
法人の場合
法人の場合、個人事業主のように開業届を出すだけではなく、様々なプロセスを踏んでいきます。以下の順序で進めていきましょう。
①定款の作成及び認証
定款とは、会社の基本的な規則を記したもので、会社の目的、商号、所在地、資本金などを記載した会社運営の基盤となるものです。自ら定款を作成するときは、法務局のHPなどから様式をダウンロードして作成できます。作成した定款は、公証人による認証を受けなければなりません。公証人による認証は3~5万円の手数料がかかります。
紙に印刷した定款の原本には印紙税として4万円分の収入印紙を貼る必要がありますが、電子定款であれば印紙税はかかりません。しかし、電子定款にはさまざまな手間がかかることから、電子定款にする場合は司法書士などの専門家に依頼するのが早道でしょう。
②法務局で登記
次に、法務局で設立登記の手続きをします。手続きには、設立登記申請書、定款のほか、登録免許税(資本金の0.7%。ただし最低15万円)、出資金の払込を証明する書類などが必要になります。
③税務署へ届け出
登記が完了すれば、税務署に「法人設立届出書」を提出します。期限は設立の日から2か月以内です。添付書類としては、基本的に定款の提出が求められます。
法人設立届出書には、13桁の法人番号を記載する必要があります。ただし、提出までに法人番号が指定されていない場合は、記載しなくても構いません。
④社会保険に関する手続き
従業員を1人でも雇えば、労働保険に加入しなければなりません。加入手続きは、労働基準監督署または公共職業安定所で行います。また、法人は、事業規模の大小にかかわらず、社会保険(健康保険、厚生年金保険など)への加入義務があります。加入するには、会社設立から5日以内に年金事務所へ届け出ます。
起業にかかる費用
次に起業にかかる費用について説明します。会社を設立する場合には、起業する前にも費用が必要になります。最低限起業で必要になる費用は以下のとおりです。
※以下では「株式会社」での会社設立を想定して費用を算出しております。
会社設立かかる費用(資本金)
会社設立するには資本金が必要です。資本金とは、事業を円滑に進めるために、株主が会社に出資した金額のことです。会社を設立するにあたっての運転資金だけでなく、新規事業を立ち上げる際などに資金が必要になったとき、株主や投資家から調達した資金も資本金に分類されます。ただし、株式上場を目指すケースなどのように、かなり有望な事業でない限り、起業時に出資を受けるのは難しいため、起業者が無理のない範囲で自己資金で賄う事がほとんどになります。いずれにせよ、資本金は事業を行うための元手という考え方のほうがわかりやすいでしょう。
尚、過去は「株式会社なら資本金1,000万円以上、有限会社なら資本金300万円以上」という決まりがありました。しかし、2006年の法改正によって、最低資本金制度がなくなり、新会社法の施行後は1円からでも会社を設立することができるようになりました。
資本金が多ければ、会社の資金繰りは楽になりますし、金融機関からお金を借りなくても、大丈夫なこともありますので、当然、資本金が多ければそれだけ会社の体力があることになります。
会社設立にかかる費用(登記)
株式会社を設立する際には、設立登記をします。実際に法人設立届出書を提出するまでには、定款を作成・認証し、登記書類を作成するという流れになります。登記申請には、オンラインと書面の2種類があり、法務局の申請用総合ソフトを使えればオンライン申請が便利です。
具体的にかかる費用は、以下のようなものです。
・定款に貼付する収入印紙代(電子定款は不要) 4万円
・定款の認証手数料 5万円
・定款の謄本手数料 約2,000円(1枚250円で8枚程度必要)
これらを踏まえると、起業する際にかかる費用は、登録免許税が最低の15万円としても、合計で約25万円は必要ということになります。
会社設立を代行業者に依頼する費用
起業する際には、上記の登記手続きなどを、代行業者に依頼する場合もあります。代行業者に依頼すれば、自身で作成から認証までを行うよりも3万円ほど、上記の費用から安くできます。
自分で電子定款を作成することも可能ですが、ICカードリーダーや電子署名するためのAdobe Acrobat DC や Adobe Acrobat Reader DCなどのソフトが必要となり、手間もかかるのであまりおすすめではありません。設立作業は専門家に依頼し、起業直後の貴重な時間は事業のために使うことをおすすめします。
代行業者によっては、会社印鑑作成も同時に行い料金を請求される場合もあります。法人の印鑑登録は設立登記のタイミングで必要となりますので、設立登記の時点で用意しておくと便利です。印鑑は素材や形状により価格はさまざまです。
会社設立以外の準備について
上記で、起業の準備のポイントや設立方法、手続き、費用などについて説明しましたが、その他にも起業準備に欠かせないものはあります。
人材を集める
人を雇う場合は、そのための準備も必要です。就業規則、人材教育マニュアルの作成、雇用する上での法律を知っておくことも重要です。人を雇うためには、求人広告や採用活動を行うなどの点で、思わぬ費用がかかってくるものです。さらに、雇用する上では、労働基準法を熟知しておく必要もあります。
求人をするには、広告費が無料になるハローワークに求人票を出すのがおすすめですが、人材の見極めは会社側の責任です。最近では、特に若い世代はネット上で求人を探します。そのため、集めたい世代、職業などによっては、ネット上の求人広告サイトなどで人を募集するのがいいでしょう。転職エージェントなどを利用すれば、ある程度マッチした人材を紹介してくれますが、大きな費用がかかりますので、起業直後はあまりおすすめできません。
資金調達をする
「ベンチャーキャピタルからの出資」「エンジェル投資家からの出資」「クライドファンディング」「カードローン」など多岐にわたり資金調達方法はありますが、ここでは起業時に多く活用されている資金調達方法をご紹介します。
自己資金
まず資金調達とは違いますが、起業の資金での基本にあるのが自己資金です。自己資金とは『誰にも返す必要がないお金』です。自分の給料から少しずつ、蓄えたお金や、返済義務がない親族からの支援金は自己資金とみなされます。
一方で、借金をして手に入れたお金は、自己資金とはいいません。いつか返さなければならないからです。親族から渡されたお金であっても、親族が明確に贈与の意思を示していなければ自己資金とはみなされない可能性があります。いつか親族から返済を求められるかもしれないからです。たとえ、形式的に贈与契約書があっても、親族の財務状況が悪ければ、将来、返してくれと言われるかもしれないので、自己資金とはみなされないこともあります。「返さなければならないか否か」が判断の分かれ目になってきます。
親族・知人からの借入
親族・知人から借入をする際には、その人の好意でお金を借りることになります。先々トラブルにならないようにしっかりとした取り決めをおこなっておくことが重要です。いくら近い間柄とは言え、お金を貸す側の心理としては複雑なものです。また、後々トラブルになりやすい資金調達法でもあるため、甘えてしまわないよう入念な説明と借用書などを交わすなど、お互いが納得のいく取り決めをしっかりとしておきましょう。
その他注意点として、金額によっては贈与税を納めなくてはならないので、実施する場合は、贈与とみなされないよう書面(金銭消費貸借契約書)を作成したほうが良いでしょう。また、利息など契約内容も明確にし、返済は銀行口座を通じたり、領収書をもらうなどして、証拠を残したほうが良いでしょう。
日本政策金融公庫
起業の際の資金調達方法として代表的なのが、日本政策金融公庫からの調達です。日本政策金融公庫とは、2008年10月1日に、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行の4つの金融機関が統合して発足した100%政府出資の政策金融機関です。全国に支店網があり、固定金利での融資や、長期の返済が可能など、民間の金融機関より有利な融資制度が多く、設立間もない法人やこれから事業を始めようとする人であっても、融資を受けやすいのが特徴です。
一般的な中小企業に関係する事業は、国民生活事業になり、国民生活事業は事業資金の融資がメイン業務で、融資先数は88万先にのぼり、1先あたりの平均融資残高は698万円と小口融資が主体です。融資先の約9割が従業者9人以下であり、約半数が個人企業です。サラリーマンには馴染みではないですが、理由として、銀行のように口座はなく、貸付のみだからになります。
創業者向け融資制度である「新創業融資制度」や認定支援機関の助言があれば無担保・無保証、金利が安価になる「中小企業経営力強化資金」という融資制度がお勧めです。
制度融資(信用保証協会付融資)
上記日本政策金融公庫と並び、起業時の代表的な調達方法が制度融資(信用保証協会付融資)です。「信用保証協会」という公的機関に保証人になってもらい、民間の金融機関から融資を受ける制度になります。貸倒のリスクを信用保証協会が背負うので、実績のない創業者が民間金融機関から融資を受けることが可能となります。万が一返済が不可能になった場合は、信用保証協会が代わりに金融機関に返済し、その後債務者は、信用保証協会に借入金を返済することになります。信用保証協会は全国各地にあり、地域ごとに創業者向けの融資制度を設けています。また独自の融資制度を設けている自治体も多くあります。
手続きの手順としては、信用保証協会に保証の承諾を受け、金融機関から実際の融資を受けるという流れになります。また各自治体の制度を利用する場合は、自治体の窓口を経由することになります。
オフィス
オフィスを借りていないと登記できません。(一時的に自宅で登記する方法がありますが、新たにオフィスを借りるとなると定款変更など余計な費用がかかってしまいます)起業時のオフィススタイルは大きく分類して以下に分けられます。
・自宅兼事務所
・レンタルオフィス
・賃貸オフィス、貸事務所
・シェアオフィス
・コワーキングスペース
・バーチャルオフィス
自宅兼事務所
会社を設立した当初は、自宅をオフィスにする人も多いと思います。この場合は、すでに借りている、または持っている自宅ですので、費用があまりかかるということはありません。ただし、後述するバーチャルオフィスや自宅での開業は、銀行口座開設時に不利になったり、取引先からの信頼を得づらかったりなどのデメリットもありますので、注意が必要です。
レンタルオフィス
レンタルオフィスとは個室のフロア単位で区切られた空間を借りる形態のオフィスです。業務で必要となるオフィス用品、事務機器、執務空間、情報機器、インターネット回線と言った整備が揃っている状態から借りることができるため、初期費用を大きく抑えられるのが特徴です。個室のためセキュリティ性も高く、賃貸オフィスと同じく周りの目を気にせず業務を行えます。さらに専有のスペースを契約しているため、外部から信頼性を得やすいのもポイントです。
ただし、内装の改装や、店舗として利用することは原則できません。また、レンタルオフィス内でもサービス形態が異なる場合も多く、中にはオープンスペースの提供や、コンシェルジュサービスが受けられる施設も存在します。サービスによって料金形態も変わるので注意が必要になります。
シェアオフィス
シェアオフィスはコワーキングスペースと近いオフィス形態で、一つのオフィスを企業や個人の利用者とシェアしながら使うオフィスのことです。オフィス空間やオフィス機器を共有して利用するため、費用を削減できる点がポイントです。また、人との交流を目的としたコワーキングスペースと異なり、作業することに重きを置いています。中には個室を提供している施設もあり、会議や電話を安心して行えます。
しかし、セキュリティ面はレンタルオフィスや賃貸オフィスに比べると低いため、事業内容に合わせて必要なセキュリティレベルを検討することでミスマッチを防げます。費用は抑えたいが、オフィス機能が欲しい場合はシェアオフィスを利用してみるのも一つの手です。
コワーキングスペース
コワーキングスペースはカフェのようなオープンスペースな空間内で利用者が設備を共有しながら仕事を行うオフィス形態です。執務を行う場所が個室ではなく、フリーアドレスなためプライバシー性は低い傾向にありますが、仕事場を低コストで獲得できます。また、カフェや図書館などと異なり周りの目を気にせず仕事に集中できます。
ただし、秘匿性の高い情報を扱う場合、情報漏洩のリスクがあります。ただし、軽い打ち合わせであれば問題なく実施できますし、施設によっては個室の共有会議室が付属している場合もあります。仕事で必要なインフラも揃っているため、初期費用を大幅に削減しながら仕事場の獲得ができる点も魅力です。交流を重視し、仕事場としての場所が欲しい際はコワーキングスペースを活用してみてください。
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスは、実際には入居せずに住所や電話番号、FAX番号などをレンタルすることができるサービスです。固定のオフィスを必要としない起業家向けのオフィス形態です。
バーチャルオフィスと契約することにより、一等地に住所を置くことができるとはいえ、会社所在地としての実態がないため、信用度の観点からは、逆効果になることもあります。また古物商や派遣業などの許認可を取得できない可能性がありますので、予め確認しておきましょう。
事務用品関連費用
上記のオフィス家賃費用などの他にも、事務用品関連費用がかかります。事務机や椅子、パソコン、パソコンソフト、プリンター、文房具、ビジネスに利用する固定電話や携帯電話などその事業に必要な備品などが必要になります。
起業直後に必要なこと
今まで、起業前の準備について説明しましたが、ここからは起業直後の準備についてご紹介していきます。
挨拶状、会社概要、営業資料の作成
起業直後に必要なことは、自社の事業やサービスを周知するための「挨拶状」「会社概要」「営業資料」の作成です。
挨拶状の作成
独立開業した際には、これまでお世話になった方々や既存のお客様へ送る挨拶状を作りましょう。挨拶状は新たなビジネスチャンスにつながる可能性を秘めているため、起業に至った経緯や感謝の気持ちとともに、所在地や電話番号、営業時間などの情報も漏れなく記載しておくことがポイントです。また、メールやSNSで送るよりも、ハガキや封書を用いる方がより丁寧な印象を与えられるでしょう。
会社概要の作成
会社概要は、新規のお客様に自社の事業やサービスを理解してもらうために欠かせないツールです。説明会や営業活動を行う際は、口頭だけで終わらせるのではなく、自社の基本情報や取引先、沿革、代表挨拶などを簡潔にまとめた会社概要を手渡せるように前もって準備しておきましょう。自社を知ってもらえるのはもちろん、会社の信頼を高めることにもつながります。
営業資料の作成
営業資料とは、自社の商品・サービスに関する具体的な情報を記載した資料です。先方へ商品を提案・説明するときは、その商品の概要やメリットについてまとめられた営業資料が欠かせません。後から資料を見て検討することもあるため、誰が見てもわかりやすいように必要な部分だけをシンプルにまとめることがポイントです。自身で作成するのが難しい場合は、資料作成のプロへのアウトソーシング(外注)を検討しましょう。
起業したことを周囲に伝えましょう
事業の準備や必要な手続きを済ませて起業した後は、周囲の人達に起業したことをメール・手紙などで伝えましょう。周囲の人に起業したことを伝えておけば事業に協力してくれる可能性があるほか、新たな取引先や人材確保に繋がる場合もあります。
起業に必要なものリストについて
ここからは、起業の際に用意する必要があるものを紹介します。用意するべきものは職種によっても変わってきますが、基本的に下記の8つはどの職種でも必要となるため用意しておきましょう。
・ロゴを作る
・備品を準備する
・名刺を作る
・印鑑を作る
・クレジットカードを作る
・ホームページやSNSアカウントを開設する
・事業用の銀行口座を開設する
・請求書や契約書のフォーマットを準備する
以下でそれぞれについて詳しい内容を説明します。
ロゴを作る
法人として起業する方は、会社のロゴを作りましょう。印象的なロゴがあれば顧客に自社を覚えてもらいやすくなる上に、ブランディングもしやすくなります。なお、自分にデザインスキルがない限り、ロゴの作成はデザイナーに依頼するのが一般的です。ロゴの作成を得意とするデザイン会社は多くあるため、インターネット上で探してみてください。
また、ロゴの作成費用を抑えたい場合は、クラウドソーシングなどを活用してフリーのデザイナーに依頼する方法もあります。フリーのデザイナーは一般的なデザイン会社と比べて単価が低い場合が多く、費用を抑えやすくなるでしょう。
備品を準備する
起業日を迎える前に、事業を進めるために必要となる備品を準備しておきましょう。たとえば、飲食店の場合は調理器具や食器などが必要です。後になって備品を用意するのを忘れていたのでオープンできないとなる事態を防ぐためにも、購入するものはリスト化しておくことをおすすめします。
名刺を作る
起業をする上で必須となるのが、自社や自店舗の情報が記載された名刺です。名刺はビジネスマナーとして必要不可欠なのはもちろん、自社や自店舗をアピールする際にも役立ちます。アピールの機会を逃さないためにも、名刺は起業前の段階で作っておくとよいでしょう。自宅で作業が完結するなど名刺交換の機会が少ない方でも、念の為に作っておくことをおすすめします。
なお、名刺の制作費用を抑えたい場合は、格安の名刺作成サービスを利用する選択肢もあります。料金はサービスによって異なりますが、安い場合は100部500円〜1,000円程度で名刺作成が可能です。
印鑑を作る
法人として起業する方は、会社の印鑑となる代表者印を準備しておきましょう。代表者印は、起業時に提出する書類に押印する際に必要となります。印鑑は種類によって形状が変わってきますが、代表者印の場合は直径18mmまたは21mmの丸型で作るのが一般的です。また、法人口座を開設する場合は、銀行印も作っておきましょう。代表者印でも法人口座は開設できますが、紛失のリスクなどを考えると銀行印を作ったほうが安心と言えます。
なお、個人事業主の方は個人の印鑑を使うことになるケースが多いため、新たな印鑑の作成は必要に応じて判断してください。
クレジットカードを作る
起業する際は、事業用のクレジットカードとして法人カードを作っておくと便利です。多くの法人カードは追加カードの発行に対応しているため、従業員に渡しておけば経費の管理が楽になります。プライベートと仕事用にカードを分けておけば、支出の管理もしやすくなるでしょう。
ただし、個人事業主の場合は、独立したばかりだと審査が不利になりやすいので注意してください。可能であれば、会社に勤めている起業前の段階で作っておくことをおすすめします。
ホームページやSNSアカウントを開設する
自社や自店舗を幅広い層にアピールするためにも、ホームページやSNSアカウントを開設しましょう。ホームページを開設しておけば信頼性を得やすくなり、顧客の獲得にも繋がる可能性があります。また、SNSは情報が拡散されやすいため、自社や自店舗の知名度増加やブランディングに役立つでしょう。
なお、ホームページの制作は専門の業者に依頼するのが一般的ですが、WordPressやWixなどの作成ツールを活用すれば知識がなくても自分で開設ができます。費用を抑えたい方は、まずは自分で開設する方法にチャレンジしてみてもよいかもしれません。
事業用の銀行口座を開設する
起業をする際は、事業用の銀行口座を作っておくことをおすすめします。もちろん、個人の口座でも事業を行うことは可能です。しかし、社会的な信用度が増す、事業に関する支出を管理しやすくなるなど、事業用の口座を別に開設しておくとさまざまなメリットがあります。
また、銀行によっては、インターネットや郵送で事業用の口座開設が可能なので、時間があるときに申し込んでおくとよいでしょう。
請求書や契約書のフォーマットを準備する
請求書や契約書はその都度作ることもできますが、雛形となるフォーマットを作成しておくと便利です。起業後に請求書や契約書を作る場合、初めてだとどう作ればよいのかわからず悩んでしまい、ほかの業務を圧迫してしまう可能性も考えられます。しかし、フォーマットを事前に準備しておけば、書類をスムーズに作成できるでしょう。
なお、請求書や契約書のテンプレートは、インターネットに数多く掲載されています。フォーマットを作成する際は、テンプレートをもとにして作ると手間が省けます。
まとめ
今回は、起業準備の本質や手順、手続きなどについて解説しました。
用意周到に起業の準備をしたとしても、事業を始めてから気付くことはあるものです。資金面のことから会計知識の習得、人脈作りに至るまでやっておくべきだったことは様々です。ただ起業前に何も準備について知らないよりかは知っておいた方が事業開始スピードも上がります。今回お知らせしたことを参考に準備を進めていきましょう。そして分からない事があれば以下の専門家に相談すると良いでしょう。
・会社設立関連:司法書士
・労務関連:社会保険労務士(社労士)
・税務関連:税理士
・特許関連:弁理士
・許認可・契約書関連:行政書士