いまや一定の条件を満たせば1室からでもホテルや旅館を営業することが可能な時代です。国内旅行の人気の高まりを受けて、宿泊料金を抑えた簡易宿所の宿泊施設が増加しており、趣向を凝らしたデザイナーズホテルやユニークなコンセプトのホテルの開業も続いています。
そこで今回は、ホテル・旅館などの宿泊施設での開業に必要な資格や手続きについて解説していきます。
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目次
宿泊施設の種類別に許認可が必要
宿泊施設は、旅館・ホテル・簡易宿所・下宿の4つの種類です。宿泊施設を開業するには、旅館業法に基づく各都道府県の保健所からの許認可が必要になります。
旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、宿泊とは「寝具を使用して施設を利用すること」です。旅館業法では、宿泊施設を旅館、ホテル、簡易宿所、下宿の4つに分けおり、それぞれの営業種別に基づき許認可が必要です。
・ホテル営業:洋式の構造及び設備を主とする施設を設けて営業。
・旅館営業:和式の構造及び設備を主とする施設を設けて営業。温泉旅館、観光旅館、割烹旅館、駅前旅館など。
・簡易宿所営業:宿泊する場所を多数の人で共用する構造設備を設けて営業。ゲストハウス、ペンション、ユースホステル、カプセルホテル、山小屋など。
・下宿営業:1カ月以上の期間を単位として宿泊させる営業。
また営業内容だけでなく、客室の床面積や玄関帳場の設置有無でも区分されます。この4つの営業種別において営業内容以外にも相違している点があります。まず、「客室の床面積」の相違点については以下の通りです。
・ホテル営業、旅館営業:1客室の床面積7平方メートル以上(寝台を置く客室にあっては、9平方メートル以上)
・簡易宿所営業:客室の延床面積33平方メートル以上(宿泊者の数(2人以上)を10人未満とする場合には、3.3 平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上であること)
つづいて、玄関帳場の相違点についてです。「玄関帳場」はいわゆるフロントのことで、宿泊者の確認や鍵の受け渡し、宿泊者や宿泊者以外の施設の出入りを確認するために設置されています。違いは以下の通りです。
・ホテル営業、旅館営業:玄関帳場が必要。ただし、宿泊者に緊急を要する事態等が発生した際に10分程度で職員等が駆けつけることができる体制があり、宿泊者の本人確認や宿泊者以外の出入りの状況確認を鮮明な画像により常時確認することができるビデオカメラを設置しているなど厚生労働省令で定める基準を満たしていれば、ICT(情報通信技術)設備の導入によりフロントを無人化にすることも可能です。
・簡易宿所営業、下宿営業:玄関帳場の設置義務はありません。
なお、「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」のすべてに共通するのは、入浴設備があること、見やすい場所に施設の名称を掲げること、洗面所及び便所の手洗い設備です。
このように宿泊施設は「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4つに分けることができ、開業する宿泊施設はどちらの営業種別で許認可を申請することになるかを確認しておきましょう。
ホテル・旅館経営に関わるその他の許認可・資格
ホテルや旅館を経営する際には、旅館業法の他にもさまざまな法律等が絡んできます。たとえば、以下のようなものです。
飲食店営業許可
食べ物や飲み物を提供する際に必要です。講習を受けて、「食品衛生責任者」等の資格を取得するのが一般的です。
酒類販売業許可
お酒を提供する際に必要です。一定の条件をクリアした上で申請し、免許を取得する必要があります。
喫茶店営業許可
喫茶店、サロン等でお酒を除く飲み物や茶菓を提供する場合には必要になります。
一般酒類小売販売業免許申請
売店等でお酒を販売する場合(飲食店内で飲み物として提供する場合は不要です)
公衆浴場許可
宿泊客以外も利用できる大浴場など、大衆浴場を設置する際に必要です。
他にも、施設の建設にあたっては、消防法や建築基準法など、さまざまな法律の要件をクリアする必要があります。
ホテル・旅館の営業許可申請から認可までの流れ
ホテルや旅館を経営する際の、申請~開業までのおおまかな流れは、以下になります。
・自治体に事前相談
・申請書の提出
・施設の建設工事
・保健所の調査
・許可証の交付
それぞれについて説明します。
自治体に事前相談
各都道府県などの旅館業法窓口に、事前に相談に行くのが一般的です。この時点で、施設の住所、図面、建築基準法・消防法への適合状況などを確認する場合もあります。
申請書の提出
施設の要件に沿った営業許可申請書、施設の図面、見取り図など、必要な書類を提出します。
施設の建設工事
施設を建設するための工事を行います。
保健所の調査
建設が完了したら、保健所職員が立ち入り調査を行います。構造や設備が法令で定める要件を満たしているかどうかが確認されます。
許可証の交付
申請書等の書類審査・立入検査の両方に合格した場合、営業許可を受けることができます。許可証が交付されて初めて、営業が可能となります。
申請から許可までの期間は、一般的に最短でも30日~数週間はかかります。
ホテル・旅館の開業のための資金調達方法
ホテル・旅館のを開業するのにかかる全ての資金を、自己資金だけでまかなうのは難しいでしょう。実際に、以下のような資金調達方法が考えられます。
・出資を受ける
・金融機関から融資を受ける
出資を受けるにも融資を受けるのも、それぞれメリット・デメリットがあります。
出資は借入ではないので、返済する必要がありません。また、出資家自身が事業のノウハウを持っているケースが多いので、経営のアドバイスを受けられるメリットがあります。一方で、出資を受ける場合は出資家にも経営権があるので、思い通りのホテル運営ができないなどのデメリットがある他、そもそも自分に出資してくれる人を探さなければなりません。
金融機関から融資を受けてホテルを開業できれば、自由に経営できるメリットがあります。一方で、融資は借入になるので返済が必要になるほか、融資を受けるだけの信用が必要になるので、経営実績や希望融資額の半分程度は自己資金が必要になるデメリットがあります。
経営アドバイスを受けながらホテル・旅館の開業にチャレンジしたい人は出資を、自己資金の用意があり自由に経営したい人は融資を検討すると良いでしょう。
ホテル・旅館の代表的な「出資」「融資」の受け先
前述でもお伝えしましたが、ホテル・旅館で開業する場合、出資、融資という方法がありますが、ここでは代表的な「出資」「融資」の受け先をご紹介します。
出資
ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタルとは、将来成長が見込める中小企業や、創業したばかりの企業などに出資という形で資金を供給する組織です。出資するだけではなく、役員を派遣したりベンチャーキャピタルの人脈や販路などの経営資源を活用したりすることで、出資先の企業価値を高める活動もしています。
ベンチャーキャピタルの種類として、銀行や証券会社、保険会社、ノンバンクなどといった金融機関が運営する関連会社となっています。そのほか、事業会社、商社、通信企業などの関連会社が運営するベンチャーキャピタルのほか、どこにも属さない独立系のベンチャーキャピタルも存在します。それだけでなく、民間のベンチャーキャピタルとは投資基準・投資先が異なる「政府系ベンチャーキャピタル」や、新産業の創出によって社会の発展に貢献することを目的とした「大学系ベンチャーキャピタル」も存在します。
エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、起業家のスタートアップを助ける個人投資家です。エンジェル投資家の多くは、現起業家、引退した起業家、M&A・IPOなどで会社を売却して資金を手に入れた実業家達になります。
通常、起業後まもない時期は、資金調達の面で苦労を強いられます。起業時は説明できる実績が 無いため、銀行や金融機関などの融資やベンチャーキャピタルの出資を受けにくいからです。こうした資金調達の問題を解決してくれるのが「エンジェル投資家」の役目です。
融資
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、2008年10月1日に、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行の4つの金融機関が統合して発足した100%政府出資の政策金融機関です。全国に支店網があり、固定金利での融資や、長期の返済が可能など、民間の金融機関より有利な融資制度が多く、設立間もない法人やこれから事業を始めようとする人であっても、融資を受けやすいのが特徴です。
一般的な中小企業に関係する事業は、国民生活事業になり、国民生活事業は事業資金の融資がメイン業務で、融資先数は88万先にのぼり、1先あたりの平均融資残高は698万円と小口融資が主体です。融資先の約9割が従業者9人以下であり、約半数が個人企業です。サラリーマンには馴染みではないですが、理由として、銀行のように口座はなく、貸付のみだからになります。
創業者向け融資制度である「新創業融資制度」や認定支援機関の助言があれば無担保・無保証、金利が安価になる「中小企業経営力強化資金」という融資制度がお勧めです。
信用保証付の融資
「信用保証協会」という公的機関に保証人になってもらい、民間の金融機関から融資を受ける制度です。貸倒のリスクを信用保証協会が背負うので、実績のない創業者が民間金融機関から融資を受けることが可能となります。万が一返済が不可能になった場合は、信用保証協会が代わりに金融機関に返済し、その後債務者は、信用保証協会に借入金を返済することになります。信用保証協会は全国各地にあり、地域ごとに創業者向けの融資制度を設けています。また独自の融資制度を設けている自治体も多くあります。
手続きの手順としては、信用保証協会に保証の承諾を受け、金融機関から実際の融資を受けるという流れになります。また各自治体の制度を利用する場合は、自治体の窓口を経由することになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、ホテル・旅館などの宿泊施設での開業に必要な資格や手続きについて解説しました。
ホテル・旅館などの宿泊施設を営業するには、旅館業法の基準を満たして申請をしなければ営業許可がおりません。ホテル・旅館などの宿泊施設の営業開始予定日に向けて準備を頑張っても、申請がおりなければ営業はできません。そのような事態を防ぐためにも旅館業法についてきちんと知識を深め、不備の無い申請書類を準備する必要があります。しっかりと準備をして、ホテル・旅館などの宿泊施設の営業をはじめましょう。