これから起業を考えている方の中には、会社の売上や利益が安定するまでは役員報酬を無報酬にするかどうか考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。確かに役員報酬を無報酬にすることで、会社にお金を残しやすくなることは事実です。しかし会社にお金を残すことだけを考えて、役員報酬を無報酬にすると思わぬ落とし穴に落ちてしまう可能性があります。
そこで今回は、役員報酬を0円にするメリットやデメリットについて解説していきます。
目次
そもそも役員や役員報酬とは?
まずは、役員や役員報酬について詳しく説明していきます。
役員
役員とは、会社の重要な意思決定や会社の経営を動かす人のことです。会社法(平成17年に会社を運営するために作られた日本の法律)における株式会社の役員とは、取締役・会計参与・監査役のことを指します。ただし、会社法施行規則では執行役、会社法で「役員等」という場合には、執行役・会計監査人も含まれます。
株式会社とは資本を出資した株主のために経営するものであり、役員は株主の利益を上げるための代理人ですので、役員は会社の利益を上げることで役員報酬を得ることができますし、もし会社に損害をもたらした場合は損害賠償責任を負わなければなりません。
役員報酬
役員報酬とは、取締役や監査役、会計参与といった会社経営において責任を有する役職に就いている人に支払う報酬のことです。従業員に労働の対価として支払う給与とは異なり、役員報酬は株主総会で決定し、毎月同じ額を支払います。
基本的に役員報酬決定から1年間は報酬金額の変更はできません。これは節税につながる不正を防ぐためで、役員報酬の決定には他にもさまざまな厳しいルールが設定されています。
役員報酬と給与の違いについて
会社が社員に支払うお金には、役員報酬のほかに、「従業員給与」もあります。役員報酬も従業員給与も、所得税の計算方法、年末調整の対象となる点は同じです。ただし、役員報酬には従業員給与と違い、金額の決定時と変更時に以下のような税務上のルールが設けられています。
・原則として事業年度を通じて一定額にすること。
・事業年度開始日(期首)から3ヵ月以内に変更しなければならない。
・役員報酬を変更する場合、株主総会を開催し、変更についての株主総会議事録(合同会社の場合は同意書)を作成する。
・事業年度開始日(期首)から4ヵ月以上経過した後に変更した場合、変更した分の報酬は損金にできない。ただし、役員の地位や職務内容を変更した場合や、経営状況が著しく悪化し、第三者との関係にも影響を与える場合についてはこの限りではない。
・賞与を支払う場合は事前に支払う金額と時期を決定し「事前確定届出給与」という書類を税務署に提出する。
役員報酬を決定する際には役員報酬の税務上のルールを確認し、必要に応じて税務署に届出ることを忘れないようにしましょう。
役員報酬を決める時期
役員報酬は、会社設立後もしくは事業年度開始日から3ヵ月以内に決めなければなりません。もし、役員報酬を3ヵ月以内に決めなければ損金(法人税法上の原価、費用、損失のこと)に算入できなくなるので、所得が多くなり納税額も多くなってしまいます。
また、一度決めた役員報酬は会社設立時もしくは事業年度開始日3ヵ月以内であれば一度だけ変更可能ですが、それ以外は年度内には変更できないので注意が必要です。とくに、会社設立時は売り上げの見通しが立ちにくいので役員報酬を決めるのは難しいかもしれませんが、税金に大きく関わるので慎重に検討し対応しましょう。
そもそも役員報酬を無報酬にする事は可能なのか?
そもそも役員報酬を無報酬にすることは可能なのでしょうか。結論から言うと可能です。役員は給与所得者ではありますが、労働基準法で言う労働者ではないので報酬を無報酬にすることは問題ではありません。
ただし役員報酬は月ごとに変更することはできないと覚えておいてください。役員報酬は会社設立日から3ヶ月以内に決定しなければなりません。そこで役員報酬を無報酬にしてしまうと、それ以降は事業年度開始時まで変更することはできません。
役員報酬を0円にするメリット
ここからは、役員報酬を0円にするメリットについて解説します。
会社に利益を残すため
役員報酬を0円にするということは「会社に利益を残す」ということです。ここで考えなければならないのは「利益を会社に残すか、個人の報酬にするのか」ということです。つまり、役員報酬額を少なく、又は無報酬にすることで会社の利益を大きくするのか、役員の収入を大きくするのか選択することが重要です。会社の経営の先行きに不安がある場合、特に会社設立当初は役員報酬を無報酬にして会社に利益を残し、経営を安定化させる方法を行う場合があります。
個人の納税額等を抑えられる
役員報酬を0円とする理由としては、税金や社会保険料等の金額を抑えるためというのも挙げられるでしょう。役員報酬についても給与所得と同じく所得税や住民税といった税金、あるいは健康保険や厚生年金といった社会保険料を支払う必要があります。これらは基本的には役員報酬の金額が大きくなればなるほど金額が大きくなりますから、この負担をなるべく抑えるために、役員報酬を無報酬にしようと考える経営者もいます。
対外的なアピールになる
役員報酬を0円にすることで決算書の利益を大きくすることができます。銀行から融資を受ける場合や信用調査会社から決算書の提出を求められた場合に会社の利益が大きい方がポジティブな評価を得られるケースが多くあります。ただし、決算書が黒字でも役員報酬が無報酬の場合は「無理やり利益を出しているのではないか」と考えられることもあるため、注意が必要です。
役員報酬を0円にするデメリット
上記では役員報酬を0円にすることのメリットについて解説しました。しかし本当に役員報酬を無報酬にしようと考えるなら、デメリットも併せて検討しないと後悔する可能性が高いです。
納税金額や保険料がお得になるとは限らない
上記で税務上のメリットでお伝えしましたが、個人の納税額等を抑えることのみを考えれば、役員報酬はゼロ円とした方が支払うべき金額を小さくすることはできます。しかし一方で、役員報酬として支払わなかった分の資金が会社にそのまま「利益」として残ってしまっている場合、そちらに法人税などの法人としての税金が発生してしまいます。場合によっては役員報酬として個人の税金を支払う場合と比べて法人としての税金の方が金額が大きくなってしまうこともあります。
もちろん、会社の規模が大きければ話は別ですが、特に起業したばかりの方は「一人社長」でやっている場合も多いでしょうから、法人としての税金であっても実質は自分ひとりの負担ですから、かえってデメリットとなってしまう可能性があります。
社会保険に加入できない場合もある
社会保険に加入できなくなる可能性が出てきます。役員報酬を無報酬にしていると、ほとんどの場合年金事務所から加入を断られます。そして、社会保険に加入できないと、「国民健康保険」「国民年金」の2つに加入する義務を負います。「国民健康保険」「国民年金」は、収入のない家族にも保険料が掛かってくるので、家族状況によっては社会保険に加入しない方が保険料の負担が増えるという可能性は十分にあります。
役員報酬を無報酬にするケースをご紹介
最後に役員報酬を無報酬にするケースを紹介します。
まずシャープの戴社長の例です。戴社長は「黒字回復に向けた確固たる決意を見せるため」あえて役員報酬を無報酬にしていました。このように、株主に対して真摯な姿勢を見せることで、株主からの不満を少しでも解消しています。
また絶対副業バレしたくないサラリーマンの方は、役員報酬を無報酬にしています。副業バレする原因のほとんどが住民税でした。しかし近年は社会保険料からも副業がばれてしまう恐れが出てきました。本業の会社と副業の会社どちらからも、収入を得ている場合それらの収入を合算して社会保険料を算定します。そしてその社会保険料はそれぞれの収入の割合に応じて按分負担しますので、本業の会社に保険料額が通知されると、経理担当者は「うちの会社以外からの収入がある」と分かってしまい、副業がばれてしてしまうのです。それを避けるために、あえて役員報酬を無報酬にすることもあります。
まとめ
役員報酬を無報酬にすることはメリット・デメリットが存在し、簡単に役員報酬の額を変更することができないため、今後の会社の利益計画などをよく考慮しなければなりません。自分で判断が難しい場合は、専門家(司法書士や税理士など)に相談しておくと良いでしょう。