会社設立の手続きが完了した後、個人事業で発生した資産及び負債を引き継ぐケースがあります。たいていの資産・負債を会社へ引き継ぐことが可能ですが、注意しなければいけないところもあります。
今回は、個人事業主から法人成りする際の「資産」「負債」を引き継ぐ方法や注意点について解説していきます。
※この記事を書いているVector Venture Supportを運営している株式会社ベクターホールディングスが発行している「起業のミカタ(小冊子)」では、更に詳しい情報を解説しています。無料でお送りしていますので、是非取り寄せをしてみて下さい。
引き継ぐことができる『資産』『負債』と引き継ぎの方法
ほとんどの資産と負債は会社に引き継ぐことができます。しかし、事務所賃借の際の敷金・保証金、コピー機のリース契約は、不動産所有者やリース会社に確認する必要があります。更に開業費等の繰延資産といった例外もあるので留意してください。引き継ぎ方法は、以下の3つがありますが、いずれの方法をとっても時価で取引することがポイントになります。
売買契約
個人事業主が持っている資産を法人側に売却するという引き継ぎ方法になります。個人事業者の社長と会社で売買契約を締結して金銭のやりとりをします。負債を引き継ぐことは「債務の引き受け」といいます。
この方法の長所は「明快でわかりやすい」ことです。逆に短所は、会社が買い取るための資金が必要であること、税金(所得税、消費税等)を考慮する必要があること、不動産の売買であれば、不動産所得税、登録免許税が会社にかかることです。
現物出資
個人事業者の社長より会社に対し、金銭以外の資産あるいは、資産と負債を出資する方法です。通常、出資というと金銭を会社に払い込んで、株主になることをいいますが、出資は金銭に限定されているわけではありません。自動車等で出資することも可能です。
この方法の長所は、会社の資本金が増加することです。逆に短所は、資産の内容によっては、時価を算出することが困難で税理士等の専門家にそうだんする必要があります。
賃貸借契約
賃貸借契約とは、個人事業主の時代に持っていた資産を法人に貸す形態のことです。個人事業者の社長と会社で「賃貸借契約書」を締結して、賃貸料を払うだけでいいだけになります。会社と会社の社長は、まったく別になりますので、会社と会社の社長で賃貸借契約を結んで、会社の社長は賃貸料を会社から受け取ることができます。しかし、個人事業者として賃貸していた事務所を会社に又貸しする場合には、「無断転貸」等の法的問題には十分に注意する必要があります。大家さんとの信頼関係を壊すことによるトラブル回避のため、大家さんには事前に十分に説明して、改めて法人として「賃貸借契約」を締結してもらうようにしましょう。
この方法の長所は、不動産取得税や登録免許税等がかからないことです。逆に短所は、賃貸料の受け取りは所得となり、法人なりしたあとも確定申告を続けなければならないことです。さらに適正な賃貸料を設定しておかないと、適正な賃貸料と実際の賃貸料との差額を役員賞与とされます。役員賞与は費用とは認められず、法人税が課されます。
『資産』『負債』を引き継ぐ場合の注意点
ここからは、資産や負債を引き継ぐ際の注意点について説明していきます。
借入金
借入金について、売買契約でも現物出資でも対応が可能です。引き継いだ場合は借入金にかかる利息を法人の経費として計上することができます。注意点としては、借入金の引き継ぎには個人事業主から法人への名義変更を行わなくてはいけなくなるので、金融機関に承諾を得る必要があるということです。また、担保が発生している借入の場合、価値の見直しによって追加の担保が必要になるケースもあるため、事前に確認するようにしましょう。
売掛金・貸付金・買掛金
こちらは売買契約でも現物出資でもどちらでも引き継ぎが可能です。引き継ぐ場合はかなり複雑な処理が必要となるため、個人事業主として処理することが可能なのであればその方が良いでしょう。どうしても引き継ぐことが必要な場合は、別途税理士などへの依頼を検討してもよいでしょう。
固定資産
不動産や車両、ソフトウエア、工具器具などがこれにあたります。固定資産の場合は、どの引き継ぎ方法でも行うことができます。売買契約や現物出資を行った場合、個人事業主側は事業で得た所得ではないため譲渡所得となります。こちらについては50万円までの資産であれば非課税で引き継ぐことができますが、不動産などを譲渡する場合、多くの売却益が個人事業主側に計上されることとなるので、所得税に跳ね返ってくる可能性があります。法人側に不動産を譲渡する場合、所得税のほかにも登録免許税や不動産取得税が課せられることになります。賃貸借契約を活用できるのはこの固定資産の引き継ぎで、個人への大きな売却益や法人側への税負担を軽減することができるため、法人成りをしたばかりの場合は固定資産については賃貸借契約を検討しても良いかもしれません。
棚卸資産
基本的に商品が該当します。棚卸資産の引き継ぎの場合は、売買契約か現物出資で引き継ぐこととなります。価格については通常販売価格の70%以上で設定することが必要です。注意点としては、ずっと棚にあるような商品や傷がついているもの、時期的に今売れることが想定されないものは価格を付けることが困難になるため、個人事業主として売り切るか処理することが必要となります。通常販売価格の70%未満の価格で設定してしまった場合、低額での譲渡として別途税金が課せられることがあり、個人の場合は所得税に、法人の場合は法人税に載せられることになります。
まとめ
今回は、個人事業主から法人成りする際の「資産」「負債」を引き継ぐ方法や注意点について解説しました。棚卸資産や固定資産の場合には、その引き継ぐ価額によって発生する所得税の金額が大きく異なるため、専門家との相談を基にその価額を決定することを検討しましょう。