「ブラック企業」という言葉が流行語になるなど、残業や長時間労働が社会問題化している近年、「みなし残業」という言葉を耳にする機会も増えているのではないでしょうか。会社には適切な契約の締結と就業規則の作成、労働時間の把握を行う必要があり、行わないと訴訟などのトラブルが生じる危険性があります。
今回は、みなし残業(固定残業代)について解説していきます。
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みなし残業とは?
みなし残業とは、賃金や手当ての中に、あらかじめ一定時間分の残業代を含ませておく制度のことで、一定の残業代を固定して支払う固定残業制度とも言われてます。
たとえば「20時間分の残業代を含む」と規定されている場合、その月に時間外労働(残業)が発生しなくても、20時間の残業があったものと見なして対価が支払われます。裏を返すと、「時間外労働が20時間を超えるまで残業代は出ない」ということです。
みなし残業が採用されている場合、一般的には労働基準法上の週40時間を超える時間外労働や夜10時以降の深夜残業、休日出勤に対する手当は支払われませんので覚えておきましょう。
みなし残業には2つの意味がある!?
1つは残業代を定額で決める「定額残業代制」における残業時間、もう1つは労働時間が把握しづらい外回りの営業職などに対して適用される「みなし労働時間制」での残業時間です。どちらの意味においても、適切な契約の締結と就業規則の作成、労働時間の把握を行う必要があり、行わないと訴訟などのトラブルが生じる危険性があります。
定額残業代制における残業時間
1つ目の意味は、「定額残業代制における残業時間」です。定額残業代制とは、1日8時間の法定労働時間を超過する分の時間外労働に対して支払わなければならない割増賃金を、実際の労働時間に関係なく毎月固定額支払うという制度のことです。そして、ここでの固定額というのは、「月に〇〇時間の残業をした場合の割増賃金」というような形で決定されます。この「〇〇時間の残業」こそが「みなし残業」の1つの意味になります。ちなみに、この「定額残業代制」は全職種に対して適用が可能な制度です。
みなし労働時間制における残業時間
2つ目の意味は、「みなし労働時間制における残業時間」です。みなし労働時間制とは、外回りの仕事が多い営業職など、企業側が労働時間を把握しにくい職種に対して適用が可能な制度で、「毎月〇〇時間働いている」と定めて、そのみなし時間分の給与が支払われる制度です。みなし時間が1日8時間の法定労働時間を超える場合、その超過分が「みなし残業」と呼ばれ、割増賃金が適用されることになります。
みなし残業は違法なのか?
上記の通り、みなし残業は「定額残業代制」と「みなし労働時間制」という2つの制度における残業を指します。これらの制度は就業規則の範囲内で定めることが可能であり、労働基準法に則っている限り違法ではありません。しかしながら、どちらの制度においても労働基準法に反した形での労働が常態化している企業が数多くあるようです。具体的には、労働者が定額残業代制やみなし労働時間制で想定されている時間よりも多く残業をしているのにもかかわらず、その分の割増賃金を支払わない企業が後を絶たないことが問題となっています。労働基準法に則れば、例えば定額残業代制において「月40時間分の残業代」が基本給に上乗せして固定で支払われていたとしても、実際の残業時間が月80時間であった場合、実態に合わせて40時間分の残業代を追加で支払わなければなりません。
また、定額残業代制やみなし労働時間制において、固定額の根拠となるみなし時間を明記しない場合や、明記されていても、みなし残業が月45時間を超えている場合などは、同様に労働基準法違反となります。つまり、定額残業代制やみなし労働時間制の実施自体は法的に認められていますが、運用や就業規則の定め方次第では違法になってしまうことがあるということです。
経営者として行っておいた方が良い事とは
労働契約・就業規則に明示する
所定労働時間が何時間あって、それを超える残業が何時間あったとみなして、いくらの残業代(みなし残業代)を定額支給するのか明記する必要があります。フレックスタイム制を導入している企業でも考え方は同じです。清算期間内における総労働時間(あるいは法定労働時間)を超える労働時間が何時間あったとみなして固定の手当をいくら支給するのか、明記する必要があります。
みなし残業の時間数(残業とみなす時間数)の設定にあたっては、36協定(※)の限度基準や特別条項の上限に留意しつつ極端な長時間労働にならないような配慮も必要です。
従業員への周知・同意が必要
就業規則は「意見聴取」と「周知」、労働契約は「説明」と「同意」が必要です。従業員に知らせないといったことはしてはいいけません。
みなし残業分を超えた金額と時間が給与明細で明確にされている
みなし残業を導入する場合は、当然ながら「誰が何時間残業したか」を把握する労働時間管理を徹底する必要があります。残業時間や残業代を固定すること自体は違法ではありませんが、それを超える時間外労働がおこなわれた場合は、その時間分の割増賃金を正確に計算し支給する必要があります。フレックスタイム制を導入されている企業でも、考え方は同じです。
36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、労働基準法第36条により、会社は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働を従業員にさせる場合、労働組合など労働者の代表と会社の間で結ぶ協定です。
まとめ
みなし残業は、定額残業代制と、みなし労働時間制という2つの制度にまたがる言葉です。労働基準法に則っていればまったく問題にならないのですが、様々な理由から労働基準法に違反した形での制度運用が横行してしまっています。経営者として、みなし残業に関連した労働基準法違反をリスクとして捉えてもう一度自社の状況を確認することが大切です。