会社を作る際には、定款に必ず記載しなくてはならない「事業目的」ですが、具体的にどのように記入すればいいのか悩む方も多いかと思います。
そこで今回は、事業目的の書き方について、業種別の具体例を詳しくご紹介します。
目次
そもそも事業目的とは?
会社の憲法でもある定款には会社の事業目的を記載する「目的」という項目があり、これは絶対的記載事項として法律で記載を義務付けられています。
この「目的」は取引先や金融機関が会社をチェックする際に最初に確認する項目ですので、できるだけ明確で具体的に、会社がどういった事業を行っているのかを伝えられる内容でなければなりません。
事業目的の書き方について
会社の事業形態に必要となる様々な許認可の要件や、社会保険団体の入会条件になっていることもありますので、会社を立ち上げる段階で自分の会社の事業展開についての明確なイメージを描いておいたほうがいいでしょう。どういった許認可が必要かわからない場合は、会社設立前の段階で関連する行政機関や法務局、会社設立の専門家などに相談しておくと後々のリスクを回避できます。
大枠の事業目的が決まってきたら、たくさんの事業目的を羅列するのではなく、記載する「目的」の数は多くとも10個前後に抑えておき、メインとなる業種の分野を中心に関連分野の事業目的をわかりやすいように記載していきましょう。
では、以下で事業目的の書き方のポイントをご紹介します。
誰にでも分かるように書く
まずは、事業目的として「その会社が何をするのか」を誰にでも分かるように書くことが重要です。定款に記載された事業目的は会社の登記事項証明書に記載され、誰でも閲覧することができます。金融機関に口座を開設する際にも登記事項証明書は提出を求められますし、取引先から取引開始前に調べられないとも限りません。何をしているのかはっきりしない会社であれば、その後の事業活動に悪い影響をおよぼすことは明らかです。
事業目的の最初のひとつ目には、会社のメインとなる事業を分かりやすく記載しましょう。その事業が対外的にも主な事業だと認識されることになります。
記載数に上限はないため、将来の事業拡大まで視野に入れる
罰則はないものの原則として定款に記載されていない事業を行うことはできません。そのため設立後すぐには始められない事業でも、将来、事業が拡大していけば始める可能性がある事業は書いておくべきです。事業目的に記載できる数に上限はありませんし、事業目的に記載したからといって、必ずその事業をしなければならないわけではありません。実際、総合商社などは事業目的が数十個という会社もあります。
ただし、原則として「事業目的」には、その会社が行っている事業の内容が記載されている必要があります。例えば、たくさん記載された事業目的の中で実際に行っているものがごく一部では、取引先や金融機関から何をしている会社か理解されず、あまりいい印象は持たれないでしょう。
したがって事業目的の記載数は、メインの事業と、それに付随して将来行う可能性のある事業が分かるくらいが適当です。筆者は、5~10件程度が妥当なところと考えています。
「附帯関連する一切の事業」の記載を入れる
対外的に見た場合に、定款に記載した事業目的以外の事業を行っていると思われることを避けるために、事業目的を記載した最後の項目に「上記各号に附帯関連する一切の事業」と記載します。この一文の記載をおくことで、実務上、幅広い事業活動を行っている会社と解釈されるでしょう。
許認可が必要な業種か確認する
事業によっては許認可が必要となる業種があります。許認可が得られない場合、その事業を行うことはできません。許認可を申請する際は、定款にその事業が「事業の目的」に記載されていなければなりません。そのため、まずは行う事業が許認可の必要な事業であるかを確認し、事業目的にどのように記載をすればいいのか、申請を行う役所などにあらかじめ確認しておきましょう。
この点を意識しておかなければ許認可が得られないばかりか、定款を変更しなければならない事態にもなりますので注意してください。許認可を必要とする主な事業としては飲食業、労働者派遣業、古物商、建設業、宅地建物取引業、運送業などがあります。
同業他社の事業目的を参考にする
どのように事業目的を記載して良いのか迷っている場合には、同業他社の事業目的を見てみましょう。企業の公式ホームページに記載されている場合もあります。または、手数料を支払えば法人登記簿を閲覧することもできます。
事業別・業種別の事業目的一覧
ここからは、業種別の主な記載例をご紹介します。あくまで一例なので、同業他社の定款も参考にしてみましょう。
農業・林業・漁業
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- ・農業
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- ・農作業の受託
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- ・植物園の経営
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- ・農業関連事業に関する企画、調査及びコンサルティング業務
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- ・貸農園の開設、運営及びサポートに関する業務
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- ・野菜、果物及び花卉の生産及び販売業務
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- ・自然農法による野菜、果物等の生産及び販売
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- ・生花及び園芸用品の販売
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- ・牧場の経営
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- ・林業ならびに蔬菜類の生産、加工、販売
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- ・林業、製材業、木材加工業
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- ・青果卸業
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- ・かき養殖業
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- ・のり養殖業
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- ・水産養殖業
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- ・漁業その他の水産業
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- ・漁業用機械設備、水産物加工機械設備の製造、修繕、売買および仲立業
建設業
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- ・土木工事及び建築工事の設計、施工、請負並びに監理
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- ・左官工事業
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- ・とび工事業
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- ・水道施設工事業
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- ・塗装工事業
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- ・内装仕上工事業
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- ・板金工事業
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- ・防水工事業
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- ・石工事業
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- ・舗装工事業
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- ・電気工事業
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- ・タイル工事業
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- ・レンガ工事業
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- ・管工事業
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- ・機械器具設置工事
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- ・電気通信工事
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- ・造園工事
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- ・さく井工事
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- ・消防施設工事
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- ・清掃施設工事
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- ・機械器具設置工事業
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- ・建設に関するコンサルティング業務
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- ・一般廃棄物及び産業廃棄物の処分業
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- ・一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬業
金融・保険・投資業
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- ・金融業
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- ・ファクタリング業
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- ・有価証券の保有
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- ・有価証券の利用
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- ・有価証券の運用
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- ・有価証券への投資
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- ・株式、債権への投資に関する調査、企画
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- ・ベンチャービジネスへの投資及びその養成
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- ・生命保険の募集に関する業務
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- ・損害保険代理店業
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- ・投資助言・代理業
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- ・匿名組合における出資持分の売買
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- ・有価証券オプション取引
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- ・第一種金融商品取引業
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- ・第二種金融商品取式業
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- ・投資運用業
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- ・生命保険の募集に関する業務
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- ・住宅ローン事務代行
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- ・質屋業
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- ・金融商品仲介業<
不動産業
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- ・宅地建物取引業
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- ・不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介
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- ・不動産に関するコンサルティング業務
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- ・建築の現場管理業
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- ・不動産の鑑定業務
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- ・ビルメンテナンス業
運送関連
運送業は運送方法によって記載方法が変わります。また、運ぶ対象が人の事業(ハイヤー・タクシー等)の場合の記載方法もありますので、注意しましょう。
車を利用する場合
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- ・貨物自動車運送事業
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- ・貨物軽自動車運送事業
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- ・貨物利用運送事業
船を利用する場合
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- ・貨物利用運送事業
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- ・内航海運業
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- ・港湾運送事業
飛行機を利用する場合
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- ・航空運送事業
旅客運送の場合(運ぶ対象が人の事業)
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- ・一般乗用旅客自動車運送事業
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- ・一般乗合旅客自動車運送事業
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- ・一般貸切旅客自動車運送事業
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- ・特定旅客自動車運送事業
医療・福祉
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- ・老人ホームの経営
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- ・訪問介護及び在宅介護施設の経営
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- ・整骨院の経営
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- ・歯科診療所の経営
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- ・介護用品の販売
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- ・健康器具の販売
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- ・医療機器類の販売
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- ・空気清浄器、水道水の汚染防止機器の販売
教育・学習支援業
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- ・予備校の経営
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- ・学習教室の経営
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- ・音楽教室の経営
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- ・各種カルチャーセンターの経営
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- ・託児所及び保育所の経営
飲食店・宿泊業
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- ・飲食店及び喫茶店の経営
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- ・コンビニエンスストアの経営
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- ・旅館あっせん業
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- ・賃貸別荘、賃ビル、旅館、ホテルその他宿泊施設の経営
卸売・小売業
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- ・日用雑貨及び服飾雑貨の販売
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- ・衣料品、衣料雑貨品、装身具、鞄、時計及び文房具の企画、製作並びに販売
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- ・生鮮食品、保存食品及び加工食品の販売
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- ・生活用品、食料品等の移動販売事業
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- ・酒類の販売
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- ・事務用品の販売
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- ・古物営業
サービス業(生活・美容)
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- ・ネイルサロン、美容院、理容院等の理美容サービス業に関する店舗の経営
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- ・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師施設所の経営
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- ・エステティックサロンの経営
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- ・クリーニング業及びリネンサプライ業
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- ・結婚相談及び冠婚葬祭に関する情報の提供並びに仲介斡旋
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- ・食品、日用雑貨等の宅配業
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- ・自動車、自転車及びスポーツ用品の賃貸業
サービス業(人材関連)
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- ・アウトソーシング事業の受託及び請負
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- ・労働者派遣事業
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- ・一般労働者派遣事業
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- ・特定労働者派遣事業
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- ・有料職業紹介事業
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- ・求人、求職情報提供サービスの企画、運営及び管理業務
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- ・研修、セミナー、講演会、講習会等の各種催事の企画、立案、実施、運営及びそれらに関するコンサルティング業務
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- ・人材の育成、職業適性、能力開発のための教育及びカウンセリング業務
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- ・高校、大学、専門学校等への進学に関する情報の提供及び生徒、学生の募集に関するコンサルティング業務
サービス業(マスコミ・広告・出版)
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- ・電子出版物の制作、販売及び仲介
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- ・書籍の企画、編集、製作、出版及び販売事業
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- ・広告代理業及び各種の宣伝に関する業務
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- ・写真業及び印刷業
サービス業(レジャー・アミューズメント)
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- ・スポーツ、演芸、演劇、映画その他各種の興行
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- ・ライブハウス、ナイトクラブの経営
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- ・キャンプ場、公園、マリーナ等のレジャー施設、スポーツ施設、美術館、プラネタリウム等の文化施設及び研修教育施設の運営並びに賃貸
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- ・各種イベントの企画及び運営の請負
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- ・映画、コンサート、演劇、スポーツ、イベント等の各種催物チケットの販売
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- ・CD、DVD、ミュージックテープ、ビデオ等の原盤及びその他の企画、制作、販売、輸出入並びに賃貸
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- ・パンフレット、キャラクター商品(個性的な名称や特徴を有している人物、動物等の画像を付したもの)の販売
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- ・音響・映像機器の製造、販売、賃貸及びリース
サービス業(芸能関連)
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- ・タレント、モデル、アーティスト、スポーツ選手のマネージメント及び肖像権管理
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- ・映画、音楽、美術、演劇、演芸、講演その他の文化事業及びスポーツ事業の企画、制作、興行、その施設の運営及び請負並びにその関連商品の販売
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- ・作詞、作曲、編曲及び写譜の受託
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- ・文化、研究、芸術、スポーツ等の国際交流事業の企画、立案及び実施
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- ・楽譜の出版、販売及び輸出入
コンサルティング業
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- ・企業戦略の立案、企業革新、企業情報システムの構築及びM&Aに関する支援事業
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- ・経営コンサルティング業務
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- ・人材育成、能力開発のための教育事業
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- ・投資及びそのコンサルティング業務
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- ・マーケティング・リサーチ及び経営情報の調査、収集及び提供
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- ・情報通信及びインターネット関連事業への投資並びにこれら企業の合併、提携、営業権、有価証券の譲渡に関するコンサルティング、仲介、斡旋に関する業務
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- ・企業の設立、合併、整理及び清算に関するコンサルティング業務
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- ・医療、介護、保健衛生に関するコンサルティング業務
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- ・資産運用及び管理並びにこれらに関するコンサルティング業務
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- ・経済、金融・資本市場及び企業に関する研究調査業務
IT・インターネット関連
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- ・コンピュータのソフトウェア及びハードウェアの企画、研究、開発、設計、製造、販売、保守、リース
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- ・インターネット等の通信ネットワーク及び電子技術を利用した各種情報提供サービス並びに情報収集サービス
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- ・通信販売業務
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- ・コールセンター業務(電話受信発信事務代行業)
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- ・コンピュータシステムによるデータ入力及びそれに伴う事務処理の受託
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- ・音声及び映像のソフトウェアの企画、製作、販売、並びに賃貸
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- ・情報の収集、分析、管理及び処理サービス業、情報提供サービス業並びに情報処理に関する研究及び開発
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- ・通信システムによる情報、画像、楽曲の収集、配信、処理及び販売並びにそれに係る機器及び装置類の販売
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- ・インターネットによる広告業務及び番組配信
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- ・各種アプリケーションソフトの企画、開発、制作、配信、管理、運営及び販売
定款の事業内容に違反したらどうなるのか?
もしも定款に書かれている事業内容以外の事業を展開してしまった場合でも、特にペナルティや罰則などはありません。しかし、事業内容以外の取引を行った場合にはその行為が認められない可能性があります。事業内容に記載されている目的以外の取引を行うと、その行為自体が無効と判断され取引相手に迷惑をかけてしまったり、取引が止まって企業の運営に影響が出てしまったりします。
そのようなことがないように、定款の事業内容に違反をしないように心がける必要があります。違反しないためにも、上記で記述した「附帯関連する一切の事業」の記載や、先々に予定している事業内容を細かく記載しておく必要があるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、事業目的の書き方について、業種別の具体例を詳しくご紹介しました。
事業目的は起業した会社が何をするのか明確に公表する大事な項目です。現時点でやりたい事業だけではなく、会社をどう展開していくのか、今後のビジョンをふまえて考えてみましょう。