上場企業にいた方や経営者、会社経営に興味のある方であれば「社外取締役」という言葉を聞いたことがあるかと思います。但し具体的な役割を詳しく知っている方は少ないかもしれません。
そこで今回は、社外取締役について解説していきます。
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目次
そもそも社外取締役とは?
会社の経営陣として大きな意思決定や業務執行、経営の監督を行う取締役。この役割を社外から招くのが社外取締役です。通常、社内からの取締役は会社の中で管掌部門を持つことが多くなります。それは営業やマーケティング、開発、人事、経理、財務、といった会社の機能の場合もあれば、事業部門だったりと会社ごとに設計されています。
社外取締役は社員が昇格して決まるわけではないので管掌部門を持つことはなく、経営状況のチェックや監督の機能を期待されることになります。組織や事業、社長を含む他の取締役とのしがらみや利害関係がなく、客観的に会社の経営状況に意見することができる立場だということが最大の特徴です。
さらに、社外取締役の中でも、経営者や利害関係者から完全に独立して、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役を、独立社外取締役といいます。会社との間に利害関係を持たずに企業価値向上のために経営の監督を行います。独立性に関する規定は通常の社外取締役よりも厳しくなりますが、近年日本国内でも設置する企業が増えています。
上場企業では社外取締役の選任が義務付けられた
2015年には、上場企業が守るべき行動規範を示したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が適用されるようになり、上場企業においては2名以上の社外取締役の選任が求められました。さらに、2019年の会社法改正で、社外取締役2名以上の選任が義務化されました。 2021年4月には、金融庁がコーポレートガバナンス・コードの再改定をまとめ、上場企業での2名以上の社外取締役の選任が、3分の1以上に引き上げられました。また、必要と考える場合は過半数とすべきであるとの見方を明らかにしました。
社外取締役を招く場合のメリット・デメリット
企業の取締役に社外取締役を招く場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょう。
社外取締役を招くメリット
まず会社外から取締役を招くことで、取締役会の議論が活性化することが期待できます。もともと社内の取締役だけで構成されている取締役会では、多くの場合、すでに結論が出ている議題を形だけ議論しているようなこともありますし、本当は違うやり方の方が会社にとって利益をもたらすかもしれないのにも関わらず、社長の顔色を伺って意見を言わない「事なかれ主義」的な風潮に陥ってしまい、取締役会が本来の機能を果たしていない場合もあります。ここに、社外からのフレッシュな風を吹き込むことで、言いたいことを積極的に言う風潮に変わり、取締役会での議論が活性化するのです。
またSNSによる情報拡大のスピードの速さなども影響し、多くの企業はさまざまな社会問題への適切な対応を、迅速に行う必要性に迫られています。この点で、社会問題に関する有識者を社外取締役として迎えるなら、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)に対する社外へのアピールとなるでしょう。 女性管理職の登用、環境問題、ハラスメント防止措置など、企業が取り組むべき課題はたくさんありますが、これらを社外取締役の登用でスムーズに対応できるようになる場合があります。
社外取締役を招くデメリット
社外取締役の割合が増えると、議論の活性化は期待できますが、それをまとめるだけの技量のある経営者の存在が必要不可欠です。言いたいことだけ言わせても、結局はそれをまとめて経営に活かすトップの存在が大前提なのです。経営者によっては、耳の痛くなるような率直な意見も多く出ることが予想されるため、それらにしっかりと耳を傾けるだけの度量も必要になります。
報酬や任期について
社外取締役の任期は、 1年または2年で更新可とする会社が多いようですが、 監督等委員会のメンバーになった場合は、 1期2年(短縮不可)です。
平均報酬額は、 様々な銀行の調査によると約600~650万円程(※東京証券取引所第1部に上場する企業が対象なので、全国平均に比べると高額)です。とはいえ、迎える会社の規模や当人の評価、 期待される役割によってかなりバラツキが見られ、 案件ごとに条件は異なりますので、自社の規模や社外取締役に求める役割を勘案して役員報酬を決めましょう。
社外取締役にふさわしい人物像と必要とされる資質について
社外取締役にふさわしい人物像と必要とされる資質については、以下経験者や資格保持者が多いとされています。
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・経営経験者
・弁護士
・公認会計士/税理士
それぞれについて説明していきます。
経営経験者
社外取締役のバックグラウンドとして最も多いのが経営経験者です。社外取締役は、経営戦略にも直接かかわるため、他社での豊富な経営経験にもとづくアイディアや、課題点・問題点の指摘をすることが可能です。また、経営経験により培った、統率力、決断力、先見性、人徳などの資質も強みになります。ただし、経営経験者の絶対数が足りないのが実情でもあります。
弁護士
社外取締役のバックグラウンドとしては弁護士も多いです。特に監査役設置会社や監査等委員会設置会社の社外取締役として選任されるケースが多いようです。法律に詳しい弁護士は、経営陣の業務執行が適法であるかを監視する点で、適任であるといえるでしょう。 また、弁護士として培ってきたコミュニケーションスキル、ロジカルシンキングなどの資質を強みにできます。女性弁護士の活躍も多いことから、取締役の女性の比率を上げることにも繋げることができるでしょう。
公認会計士/税理士
公認会計士や税理士も、弁護士と同様に社外取締役のバックグラウンドとして比率の多い属性です。企業の健全な運営には、会計や税務など金銭面もきちんと監視する必要があります。この点で、専門知識を持ち、早くて正確な作業を行える公認会計士や税理士は、適任であるといえます。
社外取締役を選任する際の注意点やポイント
最後に、社外取締役を選任する際の注意点やポイントとして、以下が挙げられます。
自社が必要とする人物像を明確にする
社外取締役を選任する際に、自社が必要とする人物像を明確にしなければなりません。社外取締役として、期待する役割を果たすのに適した資質を持ち合わせている人物を、候補者の中から選ぶことができます。 社外取締役の選任に関しては、株主に対しても、どのような基準で選んだのか明確にする必要があります。取締役のスキルマトリックスを公開するなら、選定基準がわかりやすく、株主への説明の際に役立つでしょう。
経営者には高いリーダーシップが求められる
社外取締役の登用により、客観的な視点からの議論の活性化が期待されますが、これらをまとめるためには、経営者に高いリーダーシップが求められます。さまざまな観点からの意見を受け止めて、正しい方向へかじ取りをするパワーが必要になるでしょう。経営陣の受け入れ態勢が整うことで、社外取締役が機能するのです。
企業や事業に関する情報を発信する
社外取締役の候補者は、役目を引き受ける際に、自身の経験や専門性を活かしたいと考えるものです。実際、そう回答している人が89%いることを、「社外取締役のバックグラウンド」の調査が示しています。そこで、候補者が目にできる形で、企業や事業に関する情報を積極的に発信する必要があります。 そのためには、企業のホームページを見直して、最新情報の発信を含めて魅力的なコンテンツを充実させることができるでしょう。企業や事業がマッチしている人物がいたとしても、情報が得られないことで社外取締役を引き受けてもらえないかもしれません。
人材紹介サービスの活用も検討する
社外取締役にふさわしい人物が、簡単に見つかるわけではありません。さらに、コーポレートガバナンス・コードの改正により、社外取締役の争奪戦がはじまったと考えることもできます。そこで、ふさわしい人材を獲得するために、人材サービスの活用も検討できます。 紹介やツテにより社外取締役を迎えることが行われてきたようですが、社外取締役の本来の役割を考えると、最善の方法とはいえません。人材サービスの活用により、会社との利害関係のないふさわしい人材が見つかるかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、社外取締役について解説しました。
社外取締役の導入には多くのメリットが存在し、企業価値の向上が期待できます。ただ、社外取締役を有効に機能させるためには経営側の環境整備が必要になるでしょう。