カーボンニュートラル実現への取り組みは、すでにさまざまな業界で始まっていますが、そもそも「カーボンニュートラル」の意味をおわかりでしょうか?また日本のカーボンニュートラルを軸とするスタートアップの数は現状増えているのでしょうか?
そこで今回は、カーボンニュートラルの基礎知識やカーボンニュートラルを軸とするスタートアップの現状について解説していきます。
目次
そもそもカーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることです。「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことです。つまり、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去することで、「差し引きゼロ(ニュートラル)にする」という意味です。
そのためには、まず排出する温室効果ガスの総量を大幅に削減することが大前提となります。しかし、排出量をゼロにすることが難しい産業も多くあります。また、大気中に存在する二酸化炭素(CO2)を回収して貯留する「CCS技術」を利用した「DACCS」や「BECCS」などの「ネガティブエミッション技術」を活用することも考えられます。
しかし、これらの技術の開発には大規模な設備と高度な技術が欠かせず、その実現には膨大な資金と時間が必要です。このため、現在各国では、排出量の削減から取り組みが進められています。
温室効果ガスとは?
温室効果ガスとは、大気中に含まれる二酸化炭素やメタンなどのガスの総称です。
「地球温暖化対策の推進に関する法律」で定められている温室効果ガスは、以下の7種類になります。
・1.二酸化炭素
・2.メタン
・3.一酸化二窒素
・4.ハイドロフルオロカーボンのうち政令で定めるもの
・5.パーフルオロカーボンのうち政令で定めるもの
・6.六ふっ化硫黄
・7.三ふっ化窒素
それぞれの特徴について以下で説明していきます。
二酸化炭素
二酸化炭素は、炭素原子1個に対して、酸素原子が2個結びついた物質です。炭酸ガスと呼ばれおり、炭酸飲料やドライアイス、ビールなどに使われています。石炭や石油などの化石燃料や木、プラスチックなどを燃やすと、二酸化炭素が発生します。
メタン
メタンは炭素原子1個に対して、水素原子が4個結びついた物質です。天然ガスの主成分であり、都市ガスに使われています。また水素やメタノールの原料にもなっています。
メタンの発生源には以下のようなものがあります。
・天然ガスの採掘
・水田
・家畜のゲップ、糞尿
二酸化炭素の21倍の温室効果があると言われています。
一酸化二窒素
一酸化二窒素は、窒素原子2個に対して、酸素原子が1個結びついた物質です。身近なものでは、全身麻酔等の際に使う笑気ガスとして使われています。窒素肥料の使用や製品製造などの工業活動によって発生し、二酸化炭素の310倍の温室効果を持っているとされています。
代替フロン類(ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六ふっ化硫黄、三ふっ化窒素)
フロンは「フルオロカーボン」の通称で、炭素とフッ素が結びついた物質です。元々は自然界に存在しない物質であり、冷蔵庫やエアコンなどの冷媒用に開発され、1960年代以降、大量に使われていました。しかしフロンはオゾン層を破壊する物質ということが判明し、主なフロンは1997年から生産が禁止されています。
代替フロンはオゾン層を破壊しないものの、二酸化炭素の数百~数万倍の温室効果があります。
カーボンニュートラルが必要な理由とは?
地球温暖化への対応が喫緊の課題であることに加え、カーボンニュートラルへの挑戦が次の成長の原動力につながるからです。
近年、世界では様々な気象災害が発生しており、今後日本においても、自然生態系、自然災害、産業・経済活動等への影響が出ると言われています。気候変動の原因となっている温室効果ガスは、経済活動・日常生活に伴い排出されています。
将来の世代も安心して暮らせる、持続可能な経済社会をつくるため、今から、カーボンニュートラルの実現に向けて、取り組む必要があります。
日本の環境分野のスタートアップ数について
日本のスタートアップ・エコシステムは世界的にも認知度があがり、2021年には東京が世界9位にランクインしました。東京都では、スタートアップを大企業や中小企業、大学・研究機関、行政機関などとつなぐエコシステム形成を目的とした「スタートアップ・エコシステム・東京コンソーシアム」が2020年に設立されています。
一方、カーボンニュートラルを軸とするスタートアップの数は限られているのが現状です。クリーンテックを調査する米Cleantech Groupは、世界における革新的なクリーン技術を持つ企業100社を選定したレポート「Global Cleantech 100」※1を公表しています。
北米62社、欧州(イスラエル含む)33社、アジア5社が選出されていますが、日本企業は含まれていません。日本政府が2021年3月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」※2では、日本における気候変動関連のエコシステムの現状について、スタートアップが創出するイノベーションの重要性を言及しつつも、(1)実用化までの期間が比較的長期にわたるため、投資資金を集めるのが困難であること、(2)情報(先行事例や環境関連技術、投資家の動向など)が不足しているといった課題が指摘されています。
※1:出典:米Cleantech Group「Global Cleantech 100」
※2:出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略14の重要分野
これから起業する人は、カーボンニュートラルの実現で成長が見込まれる産業分野への転換も検討しましょう。
経済産業省が策定したグリーン成長戦略では、カーボンニュートラルの実現で成長が期待される以下14の重要分野を提示しています。この14分野はイノベーションを起こして脱炭素化に貢献するほか、日本の次の成長の源泉として期待されています。
●エネルギー関連産業
・洋上風力
・燃料アンモニア
・水素
・原子力
●輸送・製造関連産業
・自動車・蓄電池
・半導体・情報通信
・船舶
・物流・人流・土木インフラ
・食料・農林水産業
・航空機
・カーボンリサイクル
●家庭・オフィス関連産業
・住宅・建築物/次世代型太陽光
・資源循環
・ライフスタイル
出典:経済産業省 資料2「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(P15)より
まとめ
カーボンニュートラルは、GHGの排出量と吸収量を差し引いて、実質的に0にする考え方です。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、多くの国々が取り組んでいます。
そして起業を検討されている方は、上記でご紹介したカーボンニュートラルの実現で成長が期待される分野にも注目してみましょう。