会社設立のメリット・デメリットは?法人化する前の検討ポイントも解説

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この記事では、以下のことについて説明します。

・会社設立を行うメリットについて理解できる
・会社設立を行うデメリットについてがわかる
・会社設立前に検討すべきことを自分で検討できる

事業を新しく始める方法として、会社設立と個人事業主がありますが、それぞれ税金や社会的信用などで違いがあります。どちらを選ぶべきかは、事業の規模や将来の目標などによって異なります。税金の面では、会社設立は個人事業主よりメリットが多い可能性が高いですが、改めて会社設立のメリットやデメリットを把握しておくことが重要です。

ここでは、会社設立(法人化)のメリットやデメリット、注意点について解説します。

会社設立するメリット

会社設立を行うと、主に以下のメリットがあります。

・所得税と法人税の税率差を利用して節税できる
・条件付きで消費税が免税になる
・役員報酬を経費として計上できる
・給与所得控除を利用できる
・家族に対して役員報酬を支払える
・生命保険を経費として計上できる
・経費として認められる項目が増加する
・法人口座や法人クレジットカードを作れる
・赤字の繰越控除の期間が長くなる
・有限責任になる
・事業承継を行いやすくなる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

所得税と法人税の税率差を利用して節税できる

会社設立を行うと、所得税と法人税の税率差を利用しての節税が可能です。所得税や法人税は所得に課される税金で、個人事業主と会社で課税の仕組みが異なります。個人事業主にかかる税金には所得税、住民税、事業税などがあります。所得税は超過累進税率が適用され、所得が増えるほど税率が高くなります。たとえば、所得4,000万を超えると最大で45%の税率がかかり、住民税や事業税も加わることで総合的な税率は50%を超えることもあります。一方、会社の所得には最大でも30%程度の法人税がかかります。同じ事業を行い、同じ所得であっても、会社設立を行うと個人事業主に比べて税金が大幅に軽減されることがあります。特に所得金額が900万円を超えると、個人事業主と比較して、会社設立を行う方が経済的に有益であると一般的に言われています。

条件付きで消費税が免税になる

個人事業主、は以下の2つの場合には消費税の納税義務者となります。

1つは2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合、もう1つは前年の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超え、かつ、給与等支払額が1,000万円を超えた場合です。これらの条件を満たすと、消費税の納税義務が発生します。しかし、会社設立を行うと2年前の課税売上高が1,000万円を超えても消費税が免除される可能性があります。会社と個人事業主とは別人格で、2年前の年間売上高が1,000万円を超えるという条件を満たすのは、会社設立から2年後以降になるからです。ただし、消費税の免除を受けるためには、具体的な条件や手続きがあり、インボイス制度も関係してきますので、詳細な情報や対応方針は税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

役員報酬を経費として計上できる

会社設立を行うと、自分自身に対して役員報酬を支払うことができます。これは社長や取締役への給与に相当します。税金は売上から仕入や経費を差し引いた所得に対して課されますが、個人事業主とは異なり、会社では役員報酬を経費として計上できます。役員報酬を支給することで、会社の所得を減らし、税率も低く調整することができます。なお、役員報酬は金額を設定したら毎月同じ金額を支払う必要があります。これは定期同額給与と呼ばれ、金額の変更は年に1度しかできません。役員報酬の金額を決める際には、年間の事業計画を立て、見込まれる収入に基づいて適切な金額を設定することが重要です。

給与所得控除を利用できる

給与所得控除を利用することで、役員報酬を含む給与の課税額を軽減できます。給与所得においては、事業所得と異なり経費を差し引くことはできませんが、給与所得控除を利用することができます。給与所得控除は給与の金額によって概算された経費のようなものです。事業の原価率や経費の金額によっては、給与所得控除を活用する方が得になる場合もあります。

家族に対して役員報酬を支払える

会社設立を行うことで利用できるメリットとして、家族に対して役員報酬を支払うことができる点も挙げられます。家族に役員報酬を支払い所得を分散させることで、税金を節約できます。所得税は所得の金額に比例して上昇するため、社長が全額を受け取るよりも、家族に報酬を支払うことで所得を分散させる方が税率を下げつつ給与所得控除の利点を受けられます。家族を役員に登用し、報酬を支払うことで所得の分散効果が一層高まり、家族全体の所得は変わらないままトータルの税金を抑えることができます。

生命保険を経費として計上できる

個人事業主が生命保険に加入する場合、確定申告時に生命保険料控除を受けることができますが、法人になると保険の種類によっては支払った保険料の全額または半額を経費として処理できます。そのため、会社設立後に会社で生命保険に加入し、支払った保険料を経費に計上しつつ内部留保を行い、社長が退任する際に退職金として支給するという方法が広く用いられています。

経費として認められる項目が増加する

会社設立により、役員報酬だけでなく、以下のような事業に関連するものが経費として認められやすくなります。
・人件費
・地代家賃
・消耗品費
・交際費
・水道光熱費
・旅費交通費
・修繕費
・通信費
・租税公課 など

これにより、かなりの節税効果が期待できます。たとえば、業務用車両の場合、個人事業主ではプライベートと事業用の利用割合に応じて経費として処理しますが、会社では業務用車両を個人的に使用するケースが想定されないため、基本的に全額経費として計上できます。ただし、毎年一定額を費用として処理する減価償却が必要であることに注意しましょう。

法人口座や法人クレジットカードを作れる

法人として銀行口座を開設することは、事業の信用度を向上させる上で重要です。法人口座は財務の透明性を提供し、取引先や金融機関との信頼関係を築くのに役立ちます。
財務の透明性は将来の融資や信用枠拡大の際に評価の対象となります。口座残高や取引履歴は経営状況の把握に貢献し、的確な経営判断を行うのに役立つでしょう。また、法人カードを利用することで、事業関連の支払いを一元管理でき、経費の追跡と管理が効率的になります。経費管理の透明性が向上し、会計や財務に関する作業を円滑化できます。法人カードを利用すると、ポイントの獲得やクレジットカード特典の利用が可能だということも大きなメリットです。これは日常的な支出や事業に関連した経費をカード決済することで得られるメリットです。

赤字の繰越控除の期間が長くなる

個人事業主と会社では、繰り越せる赤字の年数が異なります。たとえば、個人事業主として前年に500万円の赤字があり、今年500万円の所得があったとします。赤字の繰越控除を利用すると、繰り越している500万円を利用して差し引き、今年の所得として課税される金額は0円とすることができます。基本的に、青色申告の承認を受けている個人事業主の場合、赤字を3年間繰り越すことができます。一方で会社の場合は10年間繰り越すことができるので、会社の方が赤字の繰り越しを長く利用できます。なお、この繰り越し可能な赤字は、期間を超えると失効します。

有限責任になる

個人事業主と法人とでは、責任範囲が異なります。個人事業主は「無限責任」です。これは、個人が事業に関連する借金を負った場合、自分個人の財産を利用しても借金を返さなければならないことを意味します。一方、株式会社や合同会社は「有限責任」です。通常、事業の失敗で借金が発生しても、会社の財産の範囲での返済となります。倒産した場合、出資したお金は回収できませんが、個人的な財産まで返済に利用しなければいけないことにはなりません。また、設立時に出資した額が返ってこなくても、追加でお金を支払う必要はありません。ただし、例外もあります。中小企業などでは、金融機関から融資を受ける際、社長の個人保証を求められることがあります。そのため、法人でも実質的には個人の無限責任になることがあります。基本的には「個人事業主は無限責任」で、「法人は有限責任」ですが、実際の運営方法によって、例外もあるので注意が必要です。

事業承継を行いやすくなる

会社設立を行うメリットとして、事業承継がスムーズに行えるという点が挙げられます。個人事業主の場合、経営者の死亡による相続で個人口座が一時凍結され、給与などの支払いが困難になる場合や、事業が継続しにくくなる場合があります。さらに、相続財産として全ての事業資産が含まれるため、相続人のうち、誰が何を相続するか協議し終えるまで事業が停滞します。従業員がいる場合は、すべての雇用契約を再調整しなければなりません。しかし、会社では経営者の死亡によっても会社口座は凍結されず、登記の変更により事業用資産や雇用関係を含む事業をスムーズに継続できます。取引先や従業員に負担をかけずに事業承継を実施したいなら、会社設立を検討してみるとよいでしょう。

会社設立するデメリット

個人事業主が会社設立を行う際に検討すべき主なデメリットは、以下の3つです。

赤字でも税金の支払いが発生する可能性がある

個人事業主の所得が赤字の場合、所得税や住民税はかかりませんが、法人化すると所得が赤字の場合でも法人住民税がかかります。法人住民税は法人の規模に応じて異なり、たとえば東京の場合、資本金1,000万円以下で従業員50人以下の小規模法人には赤字でも7万円の税金が発生します。

交際費が全額損金にできない場合がある

個人事業主の場合、基本的には、事業に関連する交際費はすべて経費として申告できます。しかし、法人の場合は飲食費に関してのみが50%の経費として認められ、年間800万円までが上限です(資本金1億円以下の企業の場合)。そのため、多額の交際費を使っている個人事業主が会社設立を行う場合や、資本金が1億円を超える法人を設立する場合においては、経費として計上できる交際費が減少する可能性があることに留意する必要があります。

株式会社を設立するためには約20万円の費用がかかる

株式会社を設立するには、最低でも1,000万円必要だと聞いたことがあるかもしれません。実はそのルールは昔のもので、今は資本金が1円からでも株式会社を作れるようになりました。ただし1円だけで設立できるわけではなく、公証人の手数料5万円と登録免許税約15万円(一番安い場合)が必要なので、合計で20万円かかります。20万円で株式会社が設立できるので、思っていたよりも手軽に会社の社長になることができるのだと感じた方もいらっしゃるかもしれません。

会社設立前に検討すること4つ

会社設立は、法人としての活動を開始するために最初に行う手続きであり、また設立後の運営にも大きな影響を与える事項を多く含んでいます。ここでは、会社設立を検討する前に考慮すべき4つの事項をピックアップし解説します。

事業拡大の可能性

会社設立に踏み切る前に検討すべき重要な要素の一つは、将来において事業を拡大する可能性です。会社設立は利益をどんどん増やしたい場合や、事業規模の拡大を目指す際に適しています。会社としての組織を整備することで、利益が大きくなった際に税制上の優遇措置を受けることや資金調達をより効果的に行うことが可能になるからです。個人事業主のままでいるより、会社設立を行えば事業拡大による多くのメリットを享受できるでしょう。投資家や金融機関からの資金調達を受ける際にも信頼性が高まるため、資金調達を行う上で大きなメリットがあります。まとまった資金を調達することは、事業の成長や拡大のための大きな武器になるでしょう。

見込み利益の大きさ

事業を始めると、所得の大きさにより税金の金額が変わるため、どのくらいの利益が見込めるのかは非常に重要です。一般的に、利益がおおよそ900万円を超えたら法人設立が節税に効果的であると言われています。ただ、法人化すると経費の算入範囲が広がるので、利益が500万円を超えたら法人設立を検討してみるとよいかもしれません。とはいえ、事業内容や規模によっては、この基準が合わないこともあるので、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

設立する会社の形態

会社にはいくつかの形態がありますが、一般的には以下の4つです。

・株式会社
・合同会社
・合資会社
・合名会社

これらの中で、ほとんどの人が選ぶのが株式会社です。他の形態はあまり選ばれないため、ここでは株式会社と近い合同会社に焦点を当てて説明します。合同会社はLLCとも呼ばれており、知名度も高いかもしれません。合同会社は株式会社の手軽なバージョンで、設立費用が株式会社の半額ほどで済むのが魅力です。
ただし、対外的には株式会社の方が信用力や知名度があり、営業や経営面で優れていることが多いです。合同会社は一人で事業を行い、対外的な信用があまり必要でない場合に適していると言えるでしょう。個人事業主が法人化する際には、「株式会社」が基本と考えておけばよいでしょう。

スタート時の従業員の雇用

事業の性質によっては、スタート時点から従業員を雇用する必要が生じることがあります。給与を経費として計上することを考慮し、会社設立か個人事業主のどちらを選択すると利益が高くなるかを検討した方がよいでしょう。たとえば、事業を始めた直後に家族を従業員として雇用する場合は、個人事業主として青色申告を行えばよいと考えられます。逆に、事業開始時から複数の従業員を雇用する場合は、会社設立を行い、給与を経費として計上することが適しているでしょう。事業拡大の見通しがあり、資金に余裕がある場合は、早い段階で法人としてスタートすることがおすすめです。一方で、資金に不安がある場合は、小規模からスタートして徐々に拡大する戦略も検討して、自身の適性や事業の運営方法を総合的に判断しましょう。

まとめ

会社設立にメリットが多くありますが、設立時の資金や設立後の税金の計算を誤ると、後で問題が生じる可能性もあります。会社設立を考えている場合、税理士に早めに相談することで、最適な資金の設定や税金対策のアドバイスを受けられます。インボイス制度により、法人化に関する免除条件が複雑になっているので、適格請求書発行事業者になるかどうかなども含めて、経験豊かな税理士の助言を仰いだ方がよいでしょう。

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