これから起業を考えている方の中には、会社の売上や利益が安定するまでは役員報酬を無報酬にするかどうか考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。確かに役員報酬を無報酬にすることで、会社にお金を残しやすくなることは事実です。しかし会社にお金を残すことだけを考えて、役員報酬を無報酬にすると思わぬ落とし穴に落ちてしまう可能性があります。
そこで今回は、役員報酬を無報酬にするメリット・デメリットについて解説していきます。
目次
役員報酬とは?給与との違いとは?
役員報酬とは、取締役や監査役などの役員に支払う報酬です。つまり、役員の給与のこと。役員報酬は株主総会で決定され、毎月給与のように一定額が支給されます。
給与は、雇用契約を結んでいることが前提です。そのため、雇用契約のない役員に対する給与は報酬と呼ばれ、雇用契約を結んでいる従業員には給与という科目で支払われます。
従業員の給与は全額損金として算入できますが、役員報酬については、節税につながる不正を防ぐために会社法や法人税法で厳しいルールが定められています。
役員報酬の対象となる役員
役員には、法人の取締役、執行役、監査役、会計参与などが該当します。役員報酬の対象となる役員は以下の通りです。
・取締役
・会計参与
・監査役
・執行役又は会計監査人
・理事
・監事など法人の経営に従事している者
会社法第423条で規定されている役員は「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人」です。理事も役員の役職の中の1つですが、主に団体で使用されることが多いのが特徴です。監事も公益法人や協同組合で監督する役目の人で役員に該当します。
役員報酬を無報酬にする事は可能なのか?
そもそも役員報酬を無報酬にすることは可能なのでしょうか。結論から言うと可能です。役員は給与所得者ではありますが、労働基準法で言う労働者ではないので報酬を無報酬にすることは問題ではありません。
ただし役員報酬は月ごとに変更することはできないと覚えておいてください。役員報酬は会社設立日から3ヶ月以内に決定しなければなりません。そこで役員報酬を無報酬にしてしまうと、それ以降は事業年度開始時まで変更することはできません。
役員報酬を無報酬(0円)とすることの意味とは?
役員報酬は、税法上は会社員等が受け取る「給与所得」と同じ扱いをします。したがって、役員報酬には所得税や住民税がかかることになり、通常であれば毎月源泉徴収されてから役員の手元に渡ります。さらにいうと健康保険と厚生年金についても源泉徴収が行われるため、給与所得と同じだといえます。
しかし、給与所得とは異なり、役員報酬には「最低賃金」の考え方はありません。したがって、様々な理由や目的のために役員報酬をゼロ円とする経営者もいます。
安定した収益を上げられるか不安があるため
役員報酬をゼロ円とすることを検討している経営者のうち、おそらく最も多いのが「安定した収益を上げられるか不安がある」という理由でしょう。実は役員報酬には、毎月同額の金額(定期同額)としないと会計上の損金として計上できないというルールがあります。
例えば役員報酬を月額30万円とした場合、想定していたより収益を上げられなかったり、あるいはもし赤字であったとしても、この月額30万円の役員報酬は支払わなければならないのです。そこで、安定した収益を上げる見込みが小さく、できるだけ会社に残すお金を大きくしておきたい場合に、あえて役員報酬をゼロ円としておくというやり方が採用されることがあります。
個人の納税額等を抑えるため
役員報酬をゼロ円とする理由としては、「税金や社会保険料等の金額を抑えるため」というのも挙げられるでしょう。役員報酬についても給与所得と同じく所得税や住民税といった税金、あるいは健康保険や厚生年金といった社会保険料を支払う必要があります。
これらは基本的には役員報酬の金額が大きくなればなるほど金額が大きくなりますから、この負担をなるべく抑えるために、役員報酬をゼロ円にしようと考える経営者もいるのです。
その他の役員報酬ゼロ円の考え方
「安定した収益を上げられない」「納税額等を抑えたい」以外の役員報酬ゼロ円とする意味や目的としては、「株主等のステークホルダーに対して姿勢を見せたい」というものも挙げられます。
例えば会社が事業に失敗して大幅な赤字を計上してしまった場合、株主等のステークホルダーに対して、会社の役員として「責任を取る」姿勢を見せる必要が生じます。責任の取り方は事態の深刻度などにより変わってきますが、そのうちの一つの手段が「役員報酬の減額」です。通常であれば「報酬月額の○%」というような形で一部を減額あるいは返上する事が多いです。
役員報酬を無報酬にするメリット
ここからは、役員報酬を無報酬にするメリットについて解説します。
会社に利益を残すため
役員報酬を無報酬にするということは「会社に利益を残す」ということです。ここで考えなければならないのは「利益を会社に残すか、個人の報酬にするのか」ということです。つまり、役員報酬額を少なく、又は無報酬にすることで会社の利益を大きくするのか、役員の収入を大きくするのか選択することが重要です。会社の経営の先行きに不安がある場合、特に会社設立当初は役員報酬を無報酬にして会社に利益を残し、経営を安定化させる方法を行う場合があります。
個人の納税額等を抑えられる
役員報酬を無報酬とする理由としては、税金や社会保険料等の金額を抑えるためというのも挙げられるでしょう。役員報酬についても給与所得と同じく所得税や住民税といった税金、あるいは健康保険や厚生年金といった社会保険料を支払う必要があります。これらは基本的には役員報酬の金額が大きくなればなるほど金額が大きくなりますから、この負担をなるべく抑えるために、役員報酬を無報酬にしようと考える経営者もいます。
対外的なアピールになる
役員報酬を無報酬にすることで決算書の利益を大きくすることができます。銀行から融資を受ける場合や信用調査会社から決算書の提出を求められた場合に会社の利益が大きい方がポジティブな評価を得られるケースが多くあります。ただし、決算書が黒字でも役員報酬が無報酬の場合は「無理やり利益を出しているのではないか」と考えられることもあるため、注意が必要です。
役員報酬を無報酬にするデメリット
上記では役員報酬を無報酬にすることのメリットについて解説しました。しかし本当に役員報酬を無報酬にしようと考えるなら、デメリットも併せて検討しないと後悔する可能性が高いです。
納税額が変わらない場合もある
役員報酬を無報酬にすることのデメリットとして、納税額が変わらないことが挙げられます。役員報酬を無報酬にすることのメリットとして、税負担を抑えられると解説しましたが、これはあくまで、個人負担の話になります。納税の義務は、個人と法人どちらにもあります。そのため、個人の税負担が軽くなった分、法人の税負担が重くなったのでは意味がありません。特には一人社長として起業を考えている方は、個人と法人でそれぞれ別に税金を納めますが、実質あなたがすべて支払っているのと同じことですので、税負担を軽くするために役員報酬を無報酬にしようと考えている方は個人の税負担だけでなく、法人の税負担も考慮して、検討する必要があります。
社会保険に加入できない場合もある
社会保険に加入できなくなる可能性が出てきます。役員報酬を無報酬にしていると、ほとんどの場合年金事務所から加入を断られます。そして、社会保険に加入できないと、「国民健康保険」「国民年金」の2つに加入する義務を負います。「国民健康保険」「国民年金」は、収入のない家族にも保険料が掛かってくるので、家族状況によっては社会保険に加入しない方が保険料の負担が増えるという可能性は十分にあります。
まとめ
役員報酬を無報酬にすることはメリット・デメリットが存在し、簡単に役員報酬の額を変更することができないため、今後の会社の利益計画などをよく考慮しなければなりません。自分で判断が難しい場合は、専門家(司法書士や税理士など)に相談しておくと良いでしょう。