会社設立に必要な資本金はその事業を始めるためのお金です。法的にいくら以上でないといけないと決まった金額はないですが、少なすぎると様々な問題が起こり得ます。どれくらいの金額を用意すべきなのかちょっと分かりづらいかもしれません。資本金を適切に準備すれば、会社をスムーズに運営するのに役立ちます。そこでこの記事では、資本金の意味や用意する際の注意点、どれくらいの金額が必要なのかについて解説します。
目次
会社設立に資本金は最低いくら必要?
資本金は会社に出資者が出資したお金などのことです。以前は、会社設立時の基準として株式会社の資本金は1.000万円以上、有限会社の資本金は300万円以上必要であるとされていました。
しかし、平成18年に会社法が施行され、会社設立時の資本金は1円でも可能になります。会社を立ち上げたばかりでは、決算書などの財務書類はまだありません。そのため、取引先や銀行は会社の信頼度を見る際には資本金の額を参考にします。事業者が自己資金を持っていると言っても、取引先はそれを確認できません。
安定した経営ができることを示すためにも、ある程度の額の資本金があった方が良いでしょう。
銀行融資を受ける際にも資本金は重要
銀行融資を受けるには資本金が重要です。銀行は信頼性が低い会社にお金を貸すことは避けるからです。創業時には各銀行が「創業融資」という枠を設けています。借りられる金額は銀行ごとに決まっていますが、一定以上自己資金の割合があることが求められます。例えば日本政策金融公庫では、自己資金10分の1が基準であり、自己資金が100万円あれば、融資が最大900万円まで受けられます。
ただし、あくまでもこれは上限で実際には必ず融資が受けられると決まっているわけではありません。融資額と自己資金の比率は、回収可能性を考慮して決まります。自己資金比率が高ければ、返済可能性が高いと判断されやすくなります。安すぎる資本金では、取引先や金融機関から信用を得られない可能性があります。
さらに、事業の種類によっては最低資本金の要件が定められている場合もあります。資本金を決める前に、許認可が必要かどうか、そして、許認可が必要な場合には資本金は最低どのくらいかを調べておくことが大切です。
会社設立に資本金が重要になる理由
この章では会社設立において資本金が重要な理由を説明します。
与信調査の基準になる
会社が初めて取引を行う場合、通常、与信調査が行われます。この調査では、商品代金の支払いや商品の提供を実施する能力が重視されます。その信用度を測る際、資本金も重要な要素として評価されます。取引相手や競合他社の企業規模や資本金を調査して判断することが一般的です。
会社の規模を示す指標として役立つ
資本金は会社の立ち上げ時の資金で、会社の「健康状態」を表すものです。資本金が少ない場合、融資を受けることが難しくなります。資本金の金額は、会社の信用度に大きな影響を与えます。特に新しく設立された会社では、資本金の額が外部から見た会社の信頼性や事業規模を示す大切な指標になります。
会社設立の資本金の決め方・基準
会社設立を行う時、決めるべき重要なポイントとして資本金の金額があります。その決め方や注意すべきポイントについて詳しく説明します。
節税のために1.000万円未満を選ぶ場合
会社設立時には、資本金を1.000万円未満にすれば、効果的な節税が可能です。資本金が1.000万円未満だと、最大で2年間は消費税が免除されます。
一方、資本金が1,000万円以上だと、会社設立初年度から消費税を支払う必要が生じます。
さらに、資本金が1,000万円未満の場合、法人住民税は年間7万円となりますが、1,000万円以上だと約18万円前後になりますので、おおよそ11万円の節税ができます。特に理由がない限り、会社を設立する際の資本金額は1,000万円未満にすることがおすすめです。
実店舗を持つ銀行口座の開設を希望する場合は100万円以上を検討
実店舗を持つ大手銀行で法人口座を開設したい場合、資本金は100万円以上にするのが得策です。資本金の額は社会的な信用度に直結するため、低すぎると大手銀行での口座開設が拒否される可能性があるからです。
大手銀行で口座を開設したい場合は、資本金は100万円以上が理想です。
融資を希望する場合は100万円以上を選ぶ
特定の事業を行うには、行政機関から許認可を受ける必要がある場合があります。この許認可には一定以上資本金の金額があることが要求されるケースがありますので、事前に確認しておくことが重要です。
例えば、人材派遣会社が必要とする「人材派遣事業の許可」では、資本金が最低2,000万円以上必要です。派遣先に安定した労働人材を提供することや、派遣労働者に適切な給与を支払うためです。
初期費用の3ヶ月分以上を確保して運転資金に不安を残さない
取引先から入金されるまで会社設立後3ヶ月もかかることを考慮して、資本金を十分に確保しましょう。初期費用や運転資金を見込んで計算し、その3ヶ月分以上の資本金を用意すると良いでしょう。初期費用にはオフィス賃料や必要な設備など、運転資金には給与や諸経費などの日々の経費が含まれます。最初の数か月間は売掛金の回収などの入金がなくても事業を安定的に進められるような資金を資本金に盛り込んでおきましょう。
資本金の金額による税金の取り扱い
資本金の金額によって税金の扱いが変わる場合があります。
この章で詳しく説明します。
登録免許税
登録免許税は、不動産登記や商業登記時に課せられる税金です。会社設立に関わる商業登記には、異なる税率が適用されます。
例えば、株式会社の場合は資本金の0.7%で、15万円未満の場合は申請1件につき15万円が適用されます。
合名会社又は合資会社は申請1件につき6万円かかります。
合同会社は資本金の0.7%で、6万円未満の場合は申請1件につき6万円が課せられます。
消費税
消費税率は標準税率が10.0%で、軽減税率は8.0%です。
通常、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は税金を払う必要がありません。
またその年度中の課税売上高が1,000万円超であっても、最初の2年間は基本的には免除されます。
ただし、資本金の金額が1,000万円以上の場合は、免除されず、最初の2年間でも消費税の支払いが必要となります。
法人税
法人税は23.2%ですが、資本金が1億円以下の会社の場合、年800万円までの所得は15%の税率が適用されます。
1億円を超える会社は全ての所得に23.2%の税率が適用されます。
法人住民税・法人事業税
法人住民税には法人税割と均等割があります。
法人税割は法人税に比例して、均等割は資本金と従業員数によって課税されます。
均等割の税率は、道府県民税が2万円から80万円、市町村民税が5万円から300万円となります。地方自治体によって法人住民税の法人税割の税率が異なる場合があります。
これは資本金の額や資本金額+従業員数によって異なる税率を適用しているためです。
法人住民税では、外形標準課税の対象となる法人には、法人事業税の所得割、付加価値割、資本割が課税されます。資本金が1億円以下の普通法人は、外形標準課税対象法人以外の法人として、所得割のみが課税対象となります。
会社設立時に資本金を払い込む流れ
資本金の支払いには口座の開設や払込手続きが必要になります。
手順を詳しく見ていきましょう。
発起人名義の口座・通帳の準備
最初に用意するものは、「発起人個人の銀行口座」です。資本金を払い込む際には、まだ会社が設立されておらず、会社の銀行口座についてもまだ作成されていません。
したがって、必要なのは発起人個人の銀行口座です。複数の発起人がいる場合は、このうちの一人の方の銀行口座を使用します。銀行口座の種別には普通口座が適しています。
なお、新たに銀行口座を開設する必要はなく、既存の銀行口座を利用することができます。
口座への資本金振り込み
口座の用意が整ったら、「資本金の振込み」を行います。
この際、注意すべきなのは「資本金をその口座に預け入れる」のではなく、「振込み」を行うということです。複数の発起人がいる場合は、各自が代表の口座に振り込みを行います。振り込みが完了したら、代表者は確実に振り込まれたかを確認してください。
通帳の内容をコピー
資本金の振り込みが完了したら、次に通帳の記帳と履歴の確認を行います。振り込んだことが分かる記載が通帳にあるか確認し、以下の3箇所をコピーして保管しましょう。
●通帳の表紙
●通帳の表紙の裏面
●資本金の振り込みが分かるページ
通帳の表紙の裏をコピーする際には、通帳の名義と口座番号がはっきりと記載されているかの確認が必要です。
払込証明書の作成
次に、口座への資本金振り込みを証明するために、払込証明書を作成します。
必要な項目を漏れなく記入することが重要です。
●払込金額の合計
●払込の際の株数
●1株あたりの金額
●日付
●会社の所在地(本店)
●会社名(商号)
●代表取締役の氏名
払込証明書には、資本金が最後に振り込まれた日付を記入します。
これらの情報を正確に書き込んだら、払込証明書の左上と代表取締役の氏名の右側の2ヵ所に、会社の代表印を押印してください。
証明書と通帳コピーを一緒にまとめる
払込証明書と通帳のコピーを用意できたら、ホチキスで留めて一つの資料にまとめましょう。
綴じる順番は以下の通りです。
●払込証明書
●通帳の表紙
●氏名や口座番号、銀行印が押印されているページ
●取引内容が記載された箇所のコピー
これらを上から順に重ね、左端の2ヵ所をホチキスで留めます。
冊子を開いて各ページの中央に代表者印で割印を行えば、まとめた資料が完成します。
会社設立後に資本金を使用する方法
資本金はビジネスをスタートする際の元手です。事業開始後はいつでも引き出すことができます。使い道に制限はありません。
ただし、使い方は重要なポイントで、事業計画に基づいて使っていくことが賢明です。最初に、何にいくらかかるか計算して、その金額を元手に設定するのが賢明です。
会社設立後に資本金を増やすメリット・デメリット
この章では会社設立後に資本金を増資のメリット・デメリットを説明します。
メリット
資金調達方法について、銀行融資は金利と元本返済が必要です。
しかし増資については、金利は不要で、さらに、返済が必要ない点が大きな違いです。
また財務の健全性について考えると、増資を行うと、貸借対照表上の株主資本が増えます。
そして、流動比率が改善することも増資のメリットです。
なお、流動比率は1年以内に支払う負債をどれだけ現金に近い資産でカバーできているか示すものです。
デメリット
増資をすると、新たに発行される株式によって株主構成が変わります。増資を受けた株主が一定以上の株主を持つと、特定の権利を行使できることがあるため、増資時に株主構成の変化に留意する必要があります。
また、株数の増加によって、1株あたりの配当支払いが増えるため、配当金の負担も大きくなります。
まとめ
今回は、資本金の意味や注意点、適切な金額について解説しました。
新しい法律により、1円からでも会社を立ち上げることができるようになりましたが、実際には他にも初期費用が掛かります。資本金が少なすぎると、融資や取引先の選択肢が制限されることがあるので、本格的な会社設立を考えるなら一定の金額を用意する必要があります。
ただし、多額の資本金も税金が増えるほどの不利益があるので、設立時には通常300万円から1,000万円未満程度が考えられます。
ただし、これはあくまでも目安であり、事業の規模や種類によって柔軟に金額を調整することが必要です。