一般社団法人は、営利を目的としない法人なので、非営利と聞くと報酬や給料は出せないのではないかと考える方もいるかと思いますが、非営利は、「利益の分配ができない」という意味なので、報酬や給料を支給することは可能になります。ただし、報酬の決め方について、他の法人格とは異なってきます
そこで今回は、一般社団法人の理事や従業員などへの報酬の決め方について解説していきます。
目次
そもそも一般社団法人とは?
一般社団法人は、営利を目的としない法人で、人の集まりを基盤とする法人です。ある共通の目的を持った人が集まり、その「団体」に対して、(法によって)人としての権利を与えられた法人を「一般社団法人」と呼びます。目的を持った人の集まり(団体)には、自治会、研究会、福祉・医療学会、協会、資格団体など、様々なものがあります。
一般社団法人は、ただ人が集まっただけでは任意団体ですので、団体名義で契約をしたり、銀行口座を作ったり、財産を持ったりすることはできません。そこで、一般社団法人化することで、この団体に法人としての権利を与えるのです。そうすることで、銀行口座が開設したり、会員から徴収した会費を使って適正に法人を維持、運営していくことが出来ます。
非営利団体である以外に、一般社団法人には以下のような特徴があります。
・設立するには「一般社団法人」という名称を前後どちらかにつける
・設立時社員は2人以上必要
・設立には1人以上の理事が必要
・公証役場で定款の認証を行う
・「資本金」ではなく「基金(拠出金)」という言葉を使う
・基金(拠出金)は返還の義務がある(法人の財産にはならない)
・株式会社ではないので「上場」はできない
一般社団法人で働く人に給料は出るのか?
一般社団法人で働く人には、株式会社の取締役に相当する理事や、実際に現場で働く従業員がいます。また、一般社団法人の構成員であり株式会社の株主と同じような立場にある社員もいます。このような人たちに給料が支払われるのか、以下で説明していきます。
「理事」に支払う役員報酬について
理事の報酬(報酬・賞与その他の職務執行の対価として法人から受ける財産上の利益)は、定款に定めるか、または、社員総会の決議によって定めます。定款への定め、または社員総会の決議においては、理事が1名の場合も複数名の場合いずれも理事全員に対する役員報酬の総額(上限額)のみを定めれば大丈夫です。
理事が複数の場合も各理事に対する具体的な配分は、法人の利害には関わってこないためです。理事が複数の場合の具体的な配分は理事会の決議や特定の理事の決定に一任することも可能です。
一般社団法人の多くは、定款に直接記載する方法は取らず、社員総会の決議で定めています。役員報酬額の変更を行う度、定款を変更するのは実務的ではないからです。なお、理事の報酬を無報酬とすることも可能です。
従業員に対する給料について
一般社団法人に従業員として勤務する人は給料をもらうことになります。一般社団法人に勤務するか、株式会社に勤務するかの違いがあるだけで、給料の決め方は通常の会社の場合と違いはありません。給与規程を作成したうえで、個々の能力や仕事の取組みなどを判断して給料を支給することとなります。
また、賞与も株式会社などと同じように支給することができるため、支給する場合は規程を設けておく必要があります。なお、従業員を1人でも雇用した場合、一般社団法人として雇用保険や労災保険に加入しなければなりません。
また、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入義務が生じることにも注意が必要です。
社員に対する給料について
一般社団法人の社員は、株式会社における株主と同じような立場にあります。株式会社における株主は、株主総会に参加したり、配当金を受け取ったりすることができます。一方、株主であることを理由に会社から給料を受け取ることはできません。このような考え方は、一般社団法人の社員についても基本的には同様です。
一般社団法人の社員については、配当を受け取ることはできませんが、社員総会での議決権は保有しています。また、社員であることを理由に給料が支給されることはありません。ただし、社員が理事に就任したり、従業員としてその一般社団法人に勤務したりすることはできます。この場合は、理事としての報酬、あるいは従業員としての給料を受け取ることになるのです。
「監事」の報酬について
監事の報酬についても定款または社員総会の決議によって定めます。一点、注意しなければならない事項があります。監事は、監査機関として独立性を保つ必要があるので、理事の報酬等として、一括で決議することは認められていません。理事とは別に決議する必要があります。理事との相違点として、各監事は社員総会において報酬等についての意見を述べることができます。監事が複数いる場合の具体的な配分については、定款や社員総会の決議がないときには、監事の協議によって定めることになります。なお、理事と同じく、監事も報酬を無報酬とすることは可能です。
「会計監査人」の報酬について
会計監査人の報酬については、理事・監事とは異なり定款若しくは社員総会の決議による必要がありません。ただ、会計監査人の独立性を保つためにも、会計監査人の報酬等を定める場合には、監事(監事が2人以上いる場合にはその過半数)の同意を得ておかなければなりません。
報酬・給料を支給するときの注意点
報酬や給料を支給するときには、株式会社など他の法人と同様に、「賃金の支払い5原則」を守る必要があります。賃金の支払い5原則とは以下の事になります。
資金の支払い5原則
①通貨払い
給料は通貨(現金)で支払わなければなりません。小切手やモノなどの現物で支払うことは原則できません。②直接払い
給料は本人に支払わなけれなりません。家族の口座への支払いは認められません。
③全額払い
給料は全額を支払わなければなりません。ただし、所得税、住民税、厚生年金、健康保険などを控除して支給することができます。
④毎月払い
給料は毎月一回以上支払わなければなりません。額が少なくてもひと月に1回以上支払う義務があります。
⑤一定期日払い
給料は一定期日に支払わなくてなりません。毎月第4火曜日支給など、月により支払日がずれるのも認められません。
また、以下のような点にも留意しなければなりません。
非営利型法人として認められなくなることもある
一定の条件を満たすと「非営利型法人」となり、税制上の優遇措置を受けることができます。ところが、過大な報酬や給料を支給すると、非営利型法人として認められなくなることがあります。なぜなら、非営利型法人の要件には「特定の個人又または団体に特別の利益を与えたことがないこと」と定められているためです。
源泉徴収が必要になる
団体職員への給料はもちろん、役員報酬も「給与所得」となり、源泉徴収が必要になります。徴収した所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納める必要があります。
社会保険への加入が必要になる
団体職員や役員に報酬や給料を支払う場合は、健康保険や厚生年金など社会保険への加入が必要になります。また、パート・アルバイトなども、労働日数や労働時間などの条件を満たせば、加入対象となります。
まとめ
一般社団法人という名称や、非営利団体であるということから、給料がほとんど払われないのではないかと誤解している人もいますが、実際には一般社団法人で働いている人は、民間企業で働く場合と同じように給料や賞与を受け取っているのです。
また、従業員に支払う給料のほか、福利厚生や休暇取得など労働環境に関する整備の必要性も、株式会社などと違いはありません。法人が事業を継続するためには、適正な給料と働きやすい環境を整備する必要があるのです。
最後に、一般社団法人など非営利法人の設立や税務に精通した専門家(司法書士や税理士など)に相談をすれば、その後の税務申告や組織運営などで、心強い存在になってくれますので、事前に相談しておくと良いでしょう。